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>>ロウ#566085
朋 ―――そして、よく晴れた秋のある日。 ポラリスの……ではなく、現実の日本の某所。 ふたりで決めたカフェの近くにある、大きな噴水の前で、ぐやは……朋は、真琴さんらしきひとの前で、大きくおじぎをしました。 そして、 「あ、あのっ……朋(とも)で……は、はいっ、ぐやですっ。 真琴さんっ、ご、ごきげんよう! きょ、今日は、よろしくお願いしますっ……」 笑顔でそう告げるのでした―――
>>ロウ#566085
ぐや 真琴さんとオフに会いましょうという話になってから、ぐやはひとりでいるときに、その日のことをよく想像していました。 その日が楽しみすぎて、つい、緊張して、うまく話せなかったらどうしよう……と考えてしまうこともありました。 でも。 (………) でも、真琴さんからのメッセージをあらためて見つめます。次に、モニタの前の真琴さんのアバターを見つめます。 こうして、ポラリスの喫茶店で向かい合って話をしていると、そんな自分に対する自信のなさを、楽しみな気持ちが拭い去ってくれます。 リアルで会ったときも、決して上手ではないだろうけれど、そ少なくともこうして、ステラボードの中で話すのと同じくらいには話せるだろうと思うのでした。 ▼
>>ロウ#566085
ぐや 「あっ、き、来ました! 真琴さんからのメッセージ!」 シンプルな内容ですが、それを書いてくれたひとの顔が思い浮かんで表情がほころびます。 「こ、こちらこそよろしくお願いしますっ、えへ、えへへ……」 メッセージに、ついつい言葉で返事をしてしまったりして。 「えっ、あっ、そ、そうですね! き、気をつけないと……ネットリテラシー、大事っ、うんっ」 これまで使っていなかった機能なだけに、知らないこと、初めて知ることがたくさんです。 真琴さんもきっと、ぐやの様子を見てそれを察してくださったのでしょう。 その気遣いがとてもうれしいなと思うのでした。 「じゃ、じゃあ……えっと、ひとまず、私達の体(アバター)はこのままで……ダイレクトメッセージで、り、リアルのカフェに行く日とか……き、決めていきましょう……っ」 ▼
>>ロウ#565260
ぐや もし連絡を取るとしたら、待ち合わせとかの連絡になるだろうから、いわゆる非公開のダイレクトメッセージの方がいいよね…… リアルカフェもだけど、さっき真琴さんが言ってくれた星を見に行くっていうのもいいなあ……星空がよく見える高原とか、天文台とかでも一般のひとが行って望遠鏡を使えるイベントとかあった気がするし……あっ、い、今はまずメッセージ送らなきゃ……! ……と、我に返ったぐやは、真琴さんのアカウントにダイレクトメッセージを送りました。 《ぐやです。これはテストです》 「お、送りました……! 届いてるかしら……だいじょうぶだと思うのですけど……」 どきどきしながらモニタの中の真琴さんを見つめます。
>>ロウ#565260
ぐや 「あ、ありがとうございます……っ ちょ、ちょっと待ってくださいね、いま、フォロー、してみます、ので……」 あらかじめスマホで立ち上げておいたSNSアプリの画面に、真琴さんのアカウント名を入力して、検索…… 「で、出ました! あっ、と、登録はまだです……これから……えっと、フォロー、フォロー……でき、ました!」 公式アカウントだらけのぐやのフォロー欄に真琴さんのアカウントが燦然と輝きました(少なくともぐやにはそう見えたのです)。 「こ、これで真琴さんと連絡が取れ……あっ、いちおう、メッセージが送れるかどうかも、試して、みますね……っ」 ▼
>>ロウ#564526
ぐや 「今夜さっそく、今言った星座を探してみようかなって思います。もちろんやぎ座も! 晴れるといいなあ……」 ゲームの中で長い時間をかけて歩き回った場所が、現実の自分たちの頭の上に広がっているって、なんだか不思議だけれどすてきだなあ……と感じるぐやでした。 「あっ、じゃ、じゃあ、あの、わ、忘れないうちに、え、えす……えすえぬ、えすの、と、登録を、しても、いいでしょう、か……っ」
>>ロウ#564526
ぐや それから、真琴さんの様子をうかがって、両手を合わせるモーションをしました。 「じゃあ、そろそろ食べましょうかっ。いただきまーす! そして、ステラボードクリア、おつかれさまでした~!」 ぱちぱちぱち……とリアルで拍手しちゃったりして。 ケーキと紅茶を味わいながら(気持ちだけれど、とてもおいしく感じます)、ぐやは真琴さんに話しかけます。 「さっき真琴さんが仰ってたこと……星座に詳しくなったっていうの、わかります! 夜空を見上げる機会が多くなったっていうか……リアルだと季節によって見える星座も違うんだなーってことに改めて気づいたり。 中学の授業で勉強したのにすっかり忘れちゃってました、えへへ……」 ▼
>>ロウ#564526
ぐや 「はいっ、おおかみ座まで到達したってことで、狼にしてみました! ベヒモスもちょっと狼に似てましたし……食べちゃったぞ~! ……みたいな、えへ、えへへ…… あっ、食べる前にスクリーンショット撮っておこうっと……食べ始めたらすぐ消えちゃいますからねっ……」 自分のケーキセットを撮って、真琴さんのケーキセットも撮って……それから二人のケーキセットを一緒に撮りました。 飴細工の輝きがいい感じです。 ケーキも紅茶もお腹の中には入らないけれど、こうしていつまでも残せますからね。 ▼
>>ロウ#563088
ぐや 真琴さんと……ロウさんと知り合うことがなければ、この広い星の世界を、ひとりで踏破することになり、もっともっと時間がかかっていたことでしょう。 もしかしたら、このゲームが終わるまで間に合わなかったかもしれません。 ありがたいなあ……としみじみします。 「あっ、運ばれてきましたよ!」 ほどなく、ウェイトレスが2人分の紅茶&ケーキのセットを運んできてくれます。 真琴さんのケーキはチョコレートケーキ。 焦げ茶のスポンジと淡い茶色のクリームの2層構造になっていて、コントラストがきれいです。 表面には粉砂糖と思われる白いテクスチャで覆われ、その中央には金色の飴で作られたヤギの飴細工がそっと差し込まれていました。 ぐやのケーキはいちごのショートケーキ。ケーキの中にも上にも大きないちごがたっぷり使われています。 そしてケーキの上のいちごの中央に、狼の飴細工が置かれているのでした。
>>ロウ#563088
ぐや 「真琴さんはやぎ座なんですね……あっ、ちょっと待ってくださいねっ。 えっと、やぎ座の性格は……『向上心があり、努力家で、コツコツとした積み重ねをがんばれる』『慎重で気遣いができる』『やさしくて思いやりがある』……当たってますねっ」 スマホで星占いのページを開いて、やぎ座のひとの特徴を読み上げます。 なんとなく開いたページだったのですけど、ブックマークしておこうかしら……と思ったりして。 「そうですね、このこぐま座に、ケフェウス座、りゅう座、こと座……へび座、へびつかい座、はくちょう座……小さな星座から大きな星座まで、色々ありましたよね。 あらためて星の地図を見ると、こんなに広い星座を全て回ったんだなあ……という感動というか、達成感みたいなものがじわじわと湧いてきますねえ……」 ▼ |
>>ロウ#563088
ぐや 「えっ、わっ、そ、そんなこと、あり、ありますかね…… そうですね、ゲームだとけっこう闘志を燃やしちゃうタイプかも……」 おしとやか、というのは自分では自信がなかったのですけれど、真琴さんにそう言ってもらえるのはとてもうれしかったのでした。 ぐやからすれば、おしとやかというのは真琴さんのようなひとだなあと思っていたからです。 おだやかで、優しくて、落ち着いていて……そんな真琴さんにおしとやかだと言ってもらえたのですから、自分にも、その、おしとやかなポイントがほんとうにあるのかも、と思えたのです。 「ありがとうございます……獅子座で良かったなって思えました、えへへ……」 少し猫背になって座っていたぐやは、ぴっと背を伸ばして座り直すとお礼を伝えるのでした。 ▼
>>ロウ#560587
ぐや ぐやが真琴さんを案内したのは、ポラリスの大通りの一角にある濃緑色の屋根の喫茶店でした。 壁は焦げ茶色のレンガ。カドが丸みを帯びた長方形の窓は大きく、席についたなら外の様子がよく見えそうです。 ウェイトレスに案内されて席につくと、ぐやはテーブルにメニューを広げました。 「この紅茶&ケーキセットがおすすめで……なぜかと言うとですね、ケーキに好きな星座の飴細工がつくんですよっ。 私は獅子座……あっ、やっぱり狼座にしようかな……おおかみ座までクリアしたってことで、おおかみ食べちゃうぞ、みたいな……えへへ…… ロウさんはどうしますっ?」
>>ロウ#560587
ぐや 「はいっ。実はあるんです」 ぐやは鎧を脱いで少女の姿になった真琴さんに、元気いっぱいに応えました。 「私のお気に入りの喫茶店なんですけど……そこのケーキセットがすごく好きでして……たびたび通ってるんです」 リアルだとうまく一人で過ごせない喫茶店ですが、ゲーム内の……NPCの喫茶店ならゆっくり過ごせるぐやなのでした。 ゲーム内の喫茶店なら、料理に手を付けるタイミングは自由ですし、例えばリアルで読書をしながらでも滞在できますから、間が持たない、ということはありませんからね。 まして今日は、一人ではなく真琴さんも一緒です。 お気に入りの喫茶店で、仲良しの友達と過ごせる……良いことづくめというわけです。 「そこでお祝いとか、SNSのこととかお話したいなって思って…… 行きましょう!」 ▼
>>ロウ#559054
ぐや そして、ワクワクする理由はもうひとつ。 ロウさん――真琴さんとのとの交流が今日で終わらないからです。 今日はSNSをフォローさせていただいたり、後日、オフ会の予定もあります。 これから行くのはゲーム内の喫茶店ですが、オフでは当然、リアルの喫茶店が楽しめるのです。 もちろん、真琴さんが仲間と作っているというゲームもとっても楽しみです。 これで終わりじゃないって、友達とこれからも遊べるってうれしいな……と思うのでした。 「!」 そして、噴水広場を訪れたぐやは、すぐにロウさんを見つけることができました。 見慣れた姿……背が高く、頼もしくて、凛々しさとやさしさを感じる鎧騎士の姿が目に入ったからです。 「ロウさーんっ! ごきげんよう~!」 ぐやはぴょん、と一度跳ねると、手を振りながら、元気いっぱい駆け寄っていくのでした―――
>>ロウ#559054
ぐや 「……」 今日はもしかすると、ふたりが揃ってログインするのは今日が最後かもしれません。 本来ならとてもさみしくなるところですが、今日のぐやはさみしさ以上にワクワクした気持ちを感じていました。 理由のひとつは、今日がポラリスでゲームクリアをお祝いする日だからです。 ぐやは、ロウさんを連れていきたいお店がありました。 ポラリスに存在するNPCが運営している喫茶店なのですが、その喫茶店で出されるケーキには、任意の星座の形の飴細工をつけることができるのです。 それがとてもきれいで、ぐやのお気に入りなのです。 もちろん、自分の星座でもいいし、友達や家族の星座、好きなフィールドの星座、あるいは単純に形が気に入っている星座でも構いません。 ロウさんはどんな星座の飴細工を選ぶのかしら……と今から楽しみです。 ▼
>>ロウ#557074
ぐや ステラボード内でロウさんと話しながらであれば、SNSを使い慣れていないぐやでも、わからないところはすぐにロウさんに聞けますからね。 「なので、今度、ポラリスに集まりましょうっ。 そこで、ゲームクリアのお祝い会も兼ねて、お話しながら、SNSを登録させていただいて……ということにっ」 もちろん、この場で早速フォローさせてもらってもいいのですが、ゲームクリアのテンションでフォローすると、また舞い上がりすぎてしまうかもしれないから……と、自分自身に対してあまり自信がないぐやでした。 ポラリスで会う日を決めたところで、座っていたぐやは立ち上がりました。 「じゃ、じゃあ、今日は解散で……っ。 あっ、あのっ! また、お祝い会、するわけですけど、帰る前に、もう一度……真琴さんさん、ありがとうございました! おつかれさまでした! ま、またですっ」
>>ロウ#557074
ぐや 「そ、そうですねっ……これで、ゲームクリア、ですね……」 CAROLの説明は世界観に即した言い方ですが、これを自分なりに読み解くと、一旦ここまでで、現バージョンのステラボードは終了。 しばらくはゲーム自体が閉じることになって……そして、追加のコンテンツが追加されたら、再びゲームが開く、ということなのでしょう。 ゲームのサービス自体が閉じてしまうのはわりと珍しいことですが、ないわけでもありません。 そして、ステラボードが閉じてしまったら、ステラボード内でしか交流がないひととは、サービスが再開するまで当分話すことができません。 そういう意味でも、ここでロウさんに、SNSという連絡先を教えてもらえたことは、ぐやにとってほんとうにありがたいことでした。 「え、えっと……じゃあ、あの、ゲームが閉じる前に、一度、SNSを教えていただいて……ふぉ、フォローさせてくださいっ」 ▼
>>ロウ#555614
ぐや 「あっ、SNS! そっか、SNSって、そういう、連絡にも使えるんですね……わ、私も一応、あるので、お願いしますっ……」 言葉の通り、ぐやもSNSのアカウントを持っていますが、自分のことについては話すことがないので、専ら好きなゲームやマンガ、アニメの公式アカウントをフォローしての情報収集に使っているのでした。 でもこれからは、ロウさん……真琴さんと連絡をする、という目的でも使えるわけで……アカウントを取っておいてよかった、と思うぐやなのでした。 「か、カフェ、も、ありがとうございますっ。ば、場所とか、日とか、その内決めましょうねっ。すごく楽しみです……えへ、えへへ……」
>>ロウ#555614
ぐや そして、『真琴』という名前は、きれいで、凛々しい響きもあって……こう、『ロウさん』のプレイヤーにふさわしい、すてきな名前だとあらためて思いました。 真琴さんに教えていただいたのでしたら、次は自分の番です。 「私は、あの、と、朋(とも)と言います……」 モニタの中に映る少女を見てぐやのプレイヤー……朋は小さくつぶやきました。 自分の本名をこうして、ネット上で誰かに――友達に教えることができるというのが、なんだかくすぐったく、誇らしい気持ちがしました。 ▼
>>ロウ#555614
ぐや 「ま、真琴さん……! 本名だったんですね……」 そう、真琴さんの言うとおり、以前砂漠のオアシスで鎧を脱いだときに『真琴』という名前は教えてもらっていたのですが、その時のぐやは、『真琴』を、『鎧の中の少女につけた"設定としての名前"』だと思っていたのです。 真琴という少女が、格好いい全身鎧を身につけているときは自らをロウと名乗っている……というような。 でもまさかそれが本名だったなんて。うれしいサプライズでした。 ですが、考えてみれば、『真琴』が本名であるということは、御本人が言わないとわからないわけですから、 もしうっかりロウさんが自分の本名を言ってしまっても、相手からしたら『鎧の中のキャラクターの名前なんだな』と思わせることができる。 鎧の着脱システムとあわせて、すごく上手な考えだなあ……と感動するのでした。 ▼ |
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