Eno.471 アニア・ナムティア  活動記録 - 病と花の色について - ひかりの森




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「いい天気ですね。」


なんて、その人とのちょっとした会話は
随分と私らしくない馴れ初めの言葉から始まった。

河原を流れる水の冷たさを感じている折に見えたのは
灰色のとんがり帽に、妙な姿の手先を持つ男の姿。

声を掛けてきた彼に向き直って、その時の私は
普段よりも穏やかで退屈な気持ちを紛らわせる為に
少しばかり丁寧な言葉を寄り選び、彼の様子を伺っていた。



「………。」


ふと小さく見えたのは、顔半分に宿る奇妙な色合い。
最初に見えた手先とは違う彩りを持つ"それ"へと視線をやり
その下に隠されていたものは――私の知る世界のものと、よく似ているもの。

驚きと困惑に固まる思考を察されたことに気を急いて
無用な不信を与えぬようにと、下手に取り繕おうとした口先から漏れたのは
彼が持つ"それ"が、私の世界に在る致命的な病と似ていることを告げる言葉。

己の事情をそれとなく理解させる為としては、
些か危険な印象の言葉を選んだろうと後になって思う。
だからその後は、彼の持つ"色"へと感じた私の小さな好意を
まるで失言に対する誤魔化しのように、改めて口にしていた。

相手がどうあれ、そうすれば私が落ち着くから、というだけの理由。
これまでの私も、色々なところでそんな振る舞いをして来た気がするけれど
その時の彼は、私の気後れに対して悪く思うことは無かったように見えていた。



「………。」


旅人であるという彼は、終始落ち着いた様子で話をしていた。
緩い印象の彼の片瞳は、彼が被る帽子の唾の奥を覗き込む私以上に
こちらの素性を覗き入るような印象を感じさせていた。

とはいえ彼も、そして私も、その時の出会いでは
お互いの事情に対する強い深入りをすることは無かった。
ただただ、奇妙な共通点に対する関心だけがあっただけのように思う。

話の終わりに、私が手癖としてちらりと見せた下心へと
彼は小さな"宛"と優しい言葉を残し、私をシェルで送ってから
お互いに行く先へと向き直り、どちらとも無くその場を去っていった。


思い返せば、穏やかなあの花飾りと、
その下に見えた深い色が鮮明に浮かんでくる。

幼い頃、花に草に興味を抱かなかった筈の私の脳裏に
あの彩りが、まるで面影のように染み付いていた。







https://soraniwa.428.st/sp/result/2811.html
         ――【結晶化】【魔素】についての記載


【魔素中毒】
 大気中を漂う【魔素】へ、生物の肉体や精神が過剰な反応を示してしまう現象。
 精神的な症状として記憶障害、幻聴、幻視といった様々な事例が確認されているほか
 重篤化すると、その生物の持つ"生命のエッセンス"が徐々に外部へと漏えいし
 肉体の著しい変異・変成を伴う結晶化現象を引き起こし
 やがては肉体そのものが【結晶】へと置換されて死に至る。

 かつては偶発的な不治の病として各地で散見されていたが
 現在では【結晶】の技術の復元と【魔素】の概念の発見と共に
 その原因の大枠が解明され、治療法の研究に一定の進展が成されている。

 魔素中毒者の平均的な余命は10年程度とされており
 ごく稀に、先天的な遺伝を主とした【魔法】の行使の過程で発症する者もいる。
 この症状は【人類】に分類される生物に対してのみ発症する特有の病であり
 肉体や精神に直接【魔素】を循環させる構造を持つとされる【魔物】は
 【魔素】の中毒症状に対する極めて強い耐性を持っている。








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