Eno.4 『第九学区の騎士』 【前日譚Ⅰ/自由の名を冠する都市にて】 - トイランブル
【「並行世界」: 日本某所 学園都市『リバティシア』某所】
全面が強化金属、ないしはプラスチール材で作られた部屋に一人。
黒い鎧と鈍い金色の髪、深紅の瞳。黒鎧の女騎士。
彼女は白色で染め上げられたその部屋で人を待っていた。
きっかけは、都市内部での『学生運動』における状況の変化。
そして、提携している『防衛学園』側から受け取る情報の精査による
ある一つの変数の実験の目途が立ったことによる。
これまで、この学園都市はほんの数年前までは外部の干渉を受けずにいた。
……然し…どういう訳かそれは崩れていく事になってしまった。
そのきっかけは、『人斬りツギハギ』が異世界へ飛んだ事にまで遡る。
6年前、彼女は『花から得た力を使役できる世界』へと飛んだ。
それは招待状の形をしていた。…本来は別の者が飛ぶはずだったが、私が
その招待状を自分の意思で彼女に渡して、飛ばした。
2年前、『組織』の者達が『Stella Board』と呼ばれるオンラインゲームの
調査を行った。……私はその調査には関わっていないが、そのゲームの
存在は、今いる場所の『所長』が過去に視察した際に垣間見ている。
続いて、『トーチライト』の首領である『火焔放射姫』が別世界へ飛んだ。
1ヵ月ほどの神隠しを経て戻ってきたが、明らかに態度の軟化が見られた。
……それから、『学園都市』のある学区に『異世界』から迷い込む者が増えた。
都市の『治安維持部隊』はこれを良しとせず、追加の規則を設けた。
異世界からの来訪者も保護し、確保し、都市での市民権を得させる規則。
これは一見すれば手厚い保護だが、その実態は管理・監視の側面が強い。
それから1年近くは平和だったが、今自分が要る場所の勢力……
『叔波グループ』はこの長年の事態に対してとうとう動きを見せた。
当該勢力の所長である『叔波浩子』は大胆にも自分達の技術で異世界への
渡航技術を作ってしまおうと考えたのだ。つまり、意図的な転移である。
これは、下手をすれば転移先の世界に大きな影響を及ぼしかねない。
更に言えば、転移先の世界とのアクセスが確保された場合——その世界の資源を
持ち帰れる可能性すら見出せる事になる。…宇宙開拓の比ではないだろう。
明確な侵略行為として数えられるのではないか、そう疑念に思う研究員も
数多くいたが―――既に我々は『侵略』を受けている側にある―――
それが所長たる『叔波浩子』の論であった。既に異世界からの来訪者が
幾人も見受けられ、『防衛学園』の件もあってのことだった。
……そして、『防衛学園』側からの技術提供を受けつつ、転移装置の
試作型が出来上がったため、そのテスターとして私が選ばれたのだ。
私が属するのは『第九学区の吸血鬼達』というヴァンパイア・ダンピールの
狭いコミュニティ勢力である。『叔波グループ』とは十数年の提携を見せ、
自分達の技術力と戦力を提供し続けてきた。
……そしてその勢力の代表騎士であり、『白金冠』を有する自分が、
『叔波浩子』から直々のご指名によってテスターに選ばれた。
様々な知識と戦い方、サバイバル術を持つが故に適任であると。
それから数か月の準備期間を経て、とうとう転移実験の日が訪れる。
それが、今だ。『学生運動』真っただ中だというのに自分を飛ばす。
自分自身が運営する工房や、『ブラム商会』との折り合いだとか……
そういう関係性の問題はこの際、目を瞑られてしまったのだろう。
なお、転移して戻ってこれる保証はない、という説明を受けた。
それならばもう少しどうでもいい人材を使うべきではないのかと
反論すべきだったが――そうもいかなかったのは言うまでもない。
どのような世界でも、その世界の状況を記録し持ち帰る。
その世界で出会った人々の記録も残す。名も記録する。
『叔波グループ』は些細な情報ひとつも見逃すなという徹底ぶりを要求した。
……そこまでできるのは、自分しかいないのだろう。
変なところで『叔波浩子』の信頼を得てしまっているものだ。
本来、自分は敵対する『第一波』の者だというのに……それでも信頼を寄せる。
それは私が置かれている立場にもあるのだという事も実感する。
同じ『第一波』である「ンナ・イ」や「パツシェア・シドロヴァ」らと出会っても
最早私は『叔波浩子』の手駒であるという認識から、関係性は好くない。
個人的には、自分の今属する勢力への干渉もあり……余計に好くはない。
だがそれを今更書き留めても、どうにもならない。
それに彼らが『Stella Board』への調査をしていた事も知っている。
……少なくとも、『叔波浩子』はその調査結果を喜んでいたから、目を瞑るだけだ。
後方支援部隊の「ブレン・モーフィアス」はその中で人を持ち帰っている。
……十分に『組織』は一線を越えているのだから、今更こちら側の行為に気付いても
そう大きな口は叩けない筈だ。
こうして思考を巡らせている間に、研究員に名を呼ばれて転移装置へと案内される。
研究員が装置を起動すると同時に、円形のワープゲートに不可思議な色の幕が張られる。
とうとう、異世界へ行く事は避けられないものとなった。
――――自由の名を冠する都市の未来の為に、異世界へ飛ぶ。
それが許されない行為だとしても、世界の為に――――
全面が強化金属、ないしはプラスチール材で作られた部屋に一人。
黒い鎧と鈍い金色の髪、深紅の瞳。黒鎧の女騎士。
彼女は白色で染め上げられたその部屋で人を待っていた。
きっかけは、都市内部での『学生運動』における状況の変化。
そして、提携している『防衛学園』側から受け取る情報の精査による
ある一つの変数の実験の目途が立ったことによる。
これまで、この学園都市はほんの数年前までは外部の干渉を受けずにいた。
……然し…どういう訳かそれは崩れていく事になってしまった。
そのきっかけは、『人斬りツギハギ』が異世界へ飛んだ事にまで遡る。
6年前、彼女は『花から得た力を使役できる世界』へと飛んだ。
それは招待状の形をしていた。…本来は別の者が飛ぶはずだったが、私が
その招待状を自分の意思で彼女に渡して、飛ばした。
2年前、『組織』の者達が『Stella Board』と呼ばれるオンラインゲームの
調査を行った。……私はその調査には関わっていないが、そのゲームの
存在は、今いる場所の『所長』が過去に視察した際に垣間見ている。
続いて、『トーチライト』の首領である『火焔放射姫』が別世界へ飛んだ。
1ヵ月ほどの神隠しを経て戻ってきたが、明らかに態度の軟化が見られた。
……それから、『学園都市』のある学区に『異世界』から迷い込む者が増えた。
都市の『治安維持部隊』はこれを良しとせず、追加の規則を設けた。
異世界からの来訪者も保護し、確保し、都市での市民権を得させる規則。
これは一見すれば手厚い保護だが、その実態は管理・監視の側面が強い。
それから1年近くは平和だったが、今自分が要る場所の勢力……
『叔波グループ』はこの長年の事態に対してとうとう動きを見せた。
当該勢力の所長である『叔波浩子』は大胆にも自分達の技術で異世界への
渡航技術を作ってしまおうと考えたのだ。つまり、意図的な転移である。
これは、下手をすれば転移先の世界に大きな影響を及ぼしかねない。
更に言えば、転移先の世界とのアクセスが確保された場合——その世界の資源を
持ち帰れる可能性すら見出せる事になる。…宇宙開拓の比ではないだろう。
明確な侵略行為として数えられるのではないか、そう疑念に思う研究員も
数多くいたが―――既に我々は『侵略』を受けている側にある―――
それが所長たる『叔波浩子』の論であった。既に異世界からの来訪者が
幾人も見受けられ、『防衛学園』の件もあってのことだった。
……そして、『防衛学園』側からの技術提供を受けつつ、転移装置の
試作型が出来上がったため、そのテスターとして私が選ばれたのだ。
私が属するのは『第九学区の吸血鬼達』というヴァンパイア・ダンピールの
狭いコミュニティ勢力である。『叔波グループ』とは十数年の提携を見せ、
自分達の技術力と戦力を提供し続けてきた。
……そしてその勢力の代表騎士であり、『白金冠』を有する自分が、
『叔波浩子』から直々のご指名によってテスターに選ばれた。
様々な知識と戦い方、サバイバル術を持つが故に適任であると。
それから数か月の準備期間を経て、とうとう転移実験の日が訪れる。
それが、今だ。『学生運動』真っただ中だというのに自分を飛ばす。
自分自身が運営する工房や、『ブラム商会』との折り合いだとか……
そういう関係性の問題はこの際、目を瞑られてしまったのだろう。
なお、転移して戻ってこれる保証はない、という説明を受けた。
それならばもう少しどうでもいい人材を使うべきではないのかと
反論すべきだったが――そうもいかなかったのは言うまでもない。
どのような世界でも、その世界の状況を記録し持ち帰る。
その世界で出会った人々の記録も残す。名も記録する。
『叔波グループ』は些細な情報ひとつも見逃すなという徹底ぶりを要求した。
……そこまでできるのは、自分しかいないのだろう。
変なところで『叔波浩子』の信頼を得てしまっているものだ。
本来、自分は敵対する『第一波』の者だというのに……それでも信頼を寄せる。
それは私が置かれている立場にもあるのだという事も実感する。
同じ『第一波』である「ンナ・イ」や「パツシェア・シドロヴァ」らと出会っても
最早私は『叔波浩子』の手駒であるという認識から、関係性は好くない。
個人的には、自分の今属する勢力への干渉もあり……余計に好くはない。
だがそれを今更書き留めても、どうにもならない。
それに彼らが『Stella Board』への調査をしていた事も知っている。
……少なくとも、『叔波浩子』はその調査結果を喜んでいたから、目を瞑るだけだ。
後方支援部隊の「ブレン・モーフィアス」はその中で人を持ち帰っている。
……十分に『組織』は一線を越えているのだから、今更こちら側の行為に気付いても
そう大きな口は叩けない筈だ。
こうして思考を巡らせている間に、研究員に名を呼ばれて転移装置へと案内される。
研究員が装置を起動すると同時に、円形のワープゲートに不可思議な色の幕が張られる。
とうとう、異世界へ行く事は避けられないものとなった。
――――自由の名を冠する都市の未来の為に、異世界へ飛ぶ。
それが許されない行為だとしても、世界の為に――――