Eno.173 世羅 双什郎 記録③:真実無妄のファナティック - トイランブル
鏡の破片が一面に散らばる、サルトル廃墟。
朽ち果てたこの場所を、双什郎は気に入っていた。
栄枯盛衰、色即是空。あらゆるものがやがては廃れ、朽ちて、消えていくことを象徴するようなこの場所は、滞在するに相応しい。
ここでは、歩く度に踏まれた破片が音を立てるので、完全に気配を消して過ごすことはできない。
入口の看板に書かれた『立入自由、帰路不保証』。『出口はない』と書きなぐられた壁。
廃墟でありながら、多くの人が集うこともある。双什郎は多くの時間を過ごしているから、よく居る面子は覚えている。
そして、ここには『見えない何者か』がいる。姿は見えないのに、足音や息遣いがある。
誰もいない時間にも現れるそれを、双什郎は追いかけていた。
双什郎は、顔のない何者かに招かれる形でこの街に来た。
双什郎は、自分を招いたのは、信仰する匂羅尊菩薩 だと確信している。
双什郎は、自分が招かれたのは何か理由があると確信している。
だから、廃墟に来て、見えない気配に気づいた時、
『あの気配を捕まえることができたら、何かとても大きなものを得られる』と予感した。
だから、廃墟に滞在して、気配を追ったり、訪れる人と話したりしている。
20個のキーギアを得たころ、双什郎はまた廃墟にいた。
歩くたびに二本歯の下駄がカラコロと音を立て、鏡の破片をパキパキと踏み割っていく。
ここに来てできた知人と話していたその時、また気配を感じた。見えない気配だ。近い。
心が沸き立つような感触。双什郎は気配の方へ走り出す。
辿り着いたのは、大きな鏡がある壁の前。
双什郎の全身と、その後ろの壁、破片まみれの床を映している。
数秒、数分、立ち尽くす。
すると、鏡に映る双什郎が歪み始める。
鏡に映る双什郎の、顔が消える。
それは、老若男女のどれともつかない声だった。
淀みなく即答する。
鏡の中の双什郎が再び揺らぐ。
揺らいで渦を巻き、星空色の奔流となる。
そして、鏡を飛び出し、双什郎を呑み込んだ。
夜に呑まれた双什郎の意識が浮上する。
どこからか響いてくる、笛と太鼓の音。
知らない言語で喚き散らすような声。
目を開いた。
そこには、混沌が在った。

無限無窮の宇宙の最奥、沸騰し湧き立つ原始の混沌の中心、
あらゆる次元から切り離され、時間を超越した無明の閨房に坐す。
くぐもったフルートとオーボエ、野蛮な太鼓の連打に合わせて踊り続ける蕃神に囲まれて無聊を慰め、白痴の夢を見ながら増殖と分裂を繰り返し、飛び散りながら冒涜的な言葉を吐き散らして玉座に寝そべり、齧り付く盲目白痴にして全知全能、万物の創造主、敢えてその名を口にするもののない魔王──
精神が容易く破壊されるほどの衝撃。
どこかから嘲笑が聞こえてくる。
双什郎は、自分がどうなっているのかわからなかった。
目の前にある混沌が、全身と魂を貫いた。
そして、思い知る。
世界の全ては、この存在が見る夢に過ぎないのだと。
目を覚ますと、双什郎は鏡の前に倒れていた。
鏡には、顔もないのにニヤニヤと双什郎を覗き込む影があった。
双什郎は顔を覆う。喉を震わせる。喘ぐような呼吸。
匂羅尊菩薩 は、Nyarlathotep 。
唖座頭仏 は、Azathoth 。
双什郎は正しい言葉を受け取った。その顔は歓喜に満ちていた。
朽ち果てたこの場所を、双什郎は気に入っていた。
栄枯盛衰、色即是空。あらゆるものがやがては廃れ、朽ちて、消えていくことを象徴するようなこの場所は、滞在するに相応しい。
ここでは、歩く度に踏まれた破片が音を立てるので、完全に気配を消して過ごすことはできない。
入口の看板に書かれた『立入自由、帰路不保証』。『出口はない』と書きなぐられた壁。
廃墟でありながら、多くの人が集うこともある。双什郎は多くの時間を過ごしているから、よく居る面子は覚えている。
そして、ここには『見えない何者か』がいる。姿は見えないのに、足音や息遣いがある。
誰もいない時間にも現れるそれを、双什郎は追いかけていた。
双什郎は、顔のない何者かに招かれる形でこの街に来た。
双什郎は、自分を招いたのは、信仰する
双什郎は、自分が招かれたのは何か理由があると確信している。
だから、廃墟に来て、見えない気配に気づいた時、
『あの気配を捕まえることができたら、何かとても大きなものを得られる』と予感した。
だから、廃墟に滞在して、気配を追ったり、訪れる人と話したりしている。
20個のキーギアを得たころ、双什郎はまた廃墟にいた。
歩くたびに二本歯の下駄がカラコロと音を立て、鏡の破片をパキパキと踏み割っていく。
ここに来てできた知人と話していたその時、また気配を感じた。見えない気配だ。近い。
心が沸き立つような感触。双什郎は気配の方へ走り出す。
辿り着いたのは、大きな鏡がある壁の前。
双什郎の全身と、その後ろの壁、破片まみれの床を映している。
数秒、数分、立ち尽くす。
すると、鏡に映る双什郎が歪み始める。
鏡に映る双什郎の、顔が消える。

???
「よく励んでいますね、双什郎。」
「よく励んでいますね、双什郎。」
それは、老若男女のどれともつかない声だった。

双什郎
「あなたは……匂羅尊菩薩 様ですか?」
「あなたは……

???
「あなた方はそう呼んでいるようですね。」
「あなた方はそう呼んでいるようですね。」

双什郎
「ああ……やはり……!お会いできて光栄です。」
「ああ……やはり……!お会いできて光栄です。」

???
「双什郎。あなたは、何を望みますか?」
「双什郎。あなたは、何を望みますか?」

双什郎
「僕は……全ての人が、あらゆる苦から逃れることを望みます。」
「僕は……全ての人が、あらゆる苦から逃れることを望みます。」

???
「どうやって?」
「どうやって?」

双什郎
「全てのものがいずれ終わる。誰もが終わりを恐れている。
けれど、逃れることはできない。そうでしょう?
せめて、その苦しみを少しでも和らげてさしあげたいのです。」
「全てのものがいずれ終わる。誰もが終わりを恐れている。
けれど、逃れることはできない。そうでしょう?
せめて、その苦しみを少しでも和らげてさしあげたいのです。」

???
「では……双什郎。」
「では……双什郎。」

???
「真実を知る覚悟はありますか?」
「真実を知る覚悟はありますか?」

双什郎
「はい。」
「はい。」
淀みなく即答する。

???
「そうですか。では──」
「そうですか。では──」

???
「見るがいい、宇宙の真実を。」
「見るがいい、宇宙の真実を。」
鏡の中の双什郎が再び揺らぐ。
揺らいで渦を巻き、星空色の奔流となる。
そして、鏡を飛び出し、双什郎を呑み込んだ。
夜に呑まれた双什郎の意識が浮上する。
どこからか響いてくる、笛と太鼓の音。
知らない言語で喚き散らすような声。
目を開いた。
そこには、混沌が在った。

無限無窮の宇宙の最奥、沸騰し湧き立つ原始の混沌の中心、
あらゆる次元から切り離され、時間を超越した無明の閨房に坐す。
くぐもったフルートとオーボエ、野蛮な太鼓の連打に合わせて踊り続ける蕃神に囲まれて無聊を慰め、白痴の夢を見ながら増殖と分裂を繰り返し、飛び散りながら冒涜的な言葉を吐き散らして玉座に寝そべり、齧り付く盲目白痴にして全知全能、万物の創造主、敢えてその名を口にするもののない魔王──
精神が容易く破壊されるほどの衝撃。
どこかから嘲笑が聞こえてくる。
双什郎は、自分がどうなっているのかわからなかった。
目の前にある混沌が、全身と魂を貫いた。
そして、思い知る。
世界の全ては、この存在が見る夢に過ぎないのだと。
目を覚ますと、双什郎は鏡の前に倒れていた。
鏡には、顔もないのにニヤニヤと双什郎を覗き込む影があった。

???
「真理の味はどうだった?愚かで可愛い信仰者くん。」
「真理の味はどうだった?愚かで可愛い信仰者くん。」

双什郎
「あ、ああ……」
「あ、ああ……」
双什郎は顔を覆う。喉を震わせる。喘ぐような呼吸。

双什郎
「あはっ、はは、はははははは!!」
「あはっ、はは、はははははは!!」

???
「なんだ、笑っているのかい、お前。」
「なんだ、笑っているのかい、お前。」

双什郎
「僕は……僕はなんと幸福なのでしょう!
あれが、あのお方こそが世界の真理!
宇宙を創造し、全てを終わらせる尊きお方!
全てを知りながら、あの方そのものが全てであった!」
「僕は……僕はなんと幸福なのでしょう!
あれが、あのお方こそが世界の真理!
宇宙を創造し、全てを終わらせる尊きお方!
全てを知りながら、あの方そのものが全てであった!」

双什郎
「なんたる僥倖!なんたる名誉!いやさか、いやさか、いやさか!」
「なんたる僥倖!なんたる名誉!いやさか、いやさか、いやさか!」

???
「ほう……あれを見てなお話せるどころか、信仰心を崩さぬか。面白い。」
「ほう……あれを見てなお話せるどころか、信仰心を崩さぬか。面白い。」

双什郎
「ああ、世界は夢なのですね。夢だから不完全で、苦しみがある。夢だからこそ、慈しむことができる。教えは正しかったのですね……。」
「ああ、世界は夢なのですね。夢だから不完全で、苦しみがある。夢だからこそ、慈しむことができる。教えは正しかったのですね……。」

???
「ふふ、良いだろう。健気な信仰者に、正しい知識を与えてやる。」
「ふふ、良いだろう。健気な信仰者に、正しい知識を与えてやる。」

双什郎
「正しい知識、ですか?」
「正しい知識、ですか?」

???
「お前が知っている祈りの文句や我々の名は、伝わる過程で歪んでいる。原文を教えてやろう。」
「お前が知っている祈りの文句や我々の名は、伝わる過程で歪んでいる。原文を教えてやろう。」

双什郎
「いやさか、なんと、なんと素晴らしい。身に余る光栄です……」
「いやさか、なんと、なんと素晴らしい。身に余る光栄です……」

???
「それが正しい発音だ、覚えておきなさい。それから──」
「それが正しい発音だ、覚えておきなさい。それから──」
双什郎は正しい言葉を受け取った。その顔は歓喜に満ちていた。

???
「私はお前を見ている。楽しませてくれよ、双什郎。」
「私はお前を見ている。楽しませてくれよ、双什郎。」

双什郎
「はい、必ずや!必ずや教えを広めて見せましょう!」
「はい、必ずや!必ずや教えを広めて見せましょう!」

双什郎
「匂羅 ・朱丹 !匂羅 ・我舎娜 !
匂羅 ・朱丹 !匂羅 ・我舎娜 !」
「

双什郎
「弥栄 !弥栄 !あははははは!」
「