Eno.534 玲沙  龍のお話 はじまり - ひかりの森

むかしむかし。
あるところに、とても美しく、険しいお山がありました。

龍たちは遠く、すごく遠くの国からやってきました。
お山の麓で暮らす人々は、沢山の龍が空を泳いできたことに驚きました。
食べられてしまうのではないかと、怖がりました。

しかし、龍たちは穏やかで優しい心を持っていました。
お山の奥の険しい場所に棲み、人に害はなさないと。
お山に棲むことを許してもらえた龍たちは、人の為に少しだけお手伝いをしました。
日照りのときには雨を降らせ、嵐のときには雲を消し去りました。

里の人々は、龍たちが好きになりました。
龍たちに人間の暮らしや技術を教え、一緒に生きる事にしました。
龍たちも、そんな優しい人間たちが大好きでした。

龍たちが人間に化けるようになると、里の子供たちと一緒に遊ぶようになりました。
里の大人たちの仕事を手伝うようになりました。
龍と人間は、とても仲良しになりました。


平和な時間が流れたある日のこと。
里では見ない服を着た人が、大きな剣を持ってやってきました。
その人は遠い都から、竜をやっつけに来たのだと言いました。

里の人々は大反対しました。
「この山に棲む龍は、悪しきものにあらず。我らに恵みを齎すものぞ」と。
都の人は言いました。
「竜は狡猾で残酷だ。今にこの里も滅ぼされるぞ」と。

話し合いは平行線を辿りました。
痺れを切らした都の人は、里の中を滅茶苦茶に歩き回りました。
そして、畑仕事をしていた人間の中に、角を生やした人間を見つけました。
龍にとって角は大事な部位です。人に化けたからと言って、簡単に隠せるものではありません。

都の人は、人に化けた龍を剣で斬りつけました。
斬られた龍は元の姿に戻り、痛い、痛いと叫びました。
しかし、都の人に龍の言葉は分かりません。化物が大騒ぎしているだけに見えました。

沢山の血を流しながら、痛みに叫びながら、龍は他の人間たちを護ろうと頑張りました。
お山にいる龍も、里で暮らす龍も、皆を護ろうと頑張りました。

けれど、都の人の剣は、そんな龍の首をすっぱりと落としたのでした。



──この時に屠られた龍が、私の父だった。


 








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