Eno.113 メリジェ  16:みんなへの手紙 - まぼろしの森林

夜の中を駆ける、四つ足のもの。
その背中に捕まるちいさいもの。

ロザリー
「オズ、もうちょっと、
 薮に突っ込んでもいいから急ぎなさいよ」

オズ
「できるか!お前が乗ってんだし。
 大事な薬がおじゃんになったら意味ないだろ」

ロザリー
「だからって、道沿いに行っていたら遠回りよ」

ロザリー
「手紙が教えてくれた場所、
 ここからもう少し西の崖のほうよ」

オズ
「ケンタウロスの足は
 足場の悪いところには向いてねえんだぞ!」

オズ
「ああもう!……
 ロザリー、振り落とされんなよ!」




休息を取っていた、メリジェの両親。

ユグネラ
「……!」

ユグネラ
「精霊たちが呼んでるわ……」

アイオン
「ユグネラ、どの方角だ?」

ユグネラ
「……あっち。手紙の場所と、同じよ!」

アイオン
「すぐ準備をしよう。近いのか?」

ユグネラ
「ええ!」




勇者
「まさか君が来るとは思ってなかったよ」


勇者は崖下で。
予定より“昼と夜が平等な森”にたどり着くのが遅くなりそうであったため、
近場で馬を借りたのが、失敗だった。
勇者は過去どんな生でも動物にはとんと嫌われるヒューマンだった。
おとなしいと聞いていた馬に暴れられ、落馬した。
いくつか骨が折れている。

魔王
「経験だけは誰よりもあるのに、
 転生すると再び馬鹿に戻るらしいな」


その側には、魔王。

勇者
「へ〜ん、世界に大迷惑をかけた魔王サマに比べたら、
 僕なんかささやかなもんだね」

勇者
「しかし、城から出てくるなんて。
 そんなに僕が心配だった?」

魔王
「我がではない。お前はいいかげん、勇者の肩書きの重さを知れ」

勇者
「もう今はただの魔王城の共同代表でしょ〜」

勇者
「ペンより剣を握ってた僕が、ヒューマン引き連れて
 みんなで手伝ってあげてるんだから、
 感謝してほしいくらいだなあ」

勇者
「転生するごとにはるばる旅もしてきてるし。
 思うんだけど、魔王城もっと立地のいいところに引っ越さない?」

魔王
「口が減らないな……」


魔王
「……朝が来るな。我はここまでだ」

勇者
「えっ助けてくれないの!?」

魔王
「助けは来る。“昼と夜が平等な森”から。」

魔王
「ソロルがお前を乗せてくれるそうだぞ。
 ドラゴンライダーデビューだな」

魔王
「我はお前を見つけ出して、場所を伝えただけのこと。
 業務外労働は、疲れる……」

勇者
「なんか悪いね!」

魔王
「まったく……」

魔王
「礼を言うなら、メリジェというハーフエルフへ。」




朝日が昇るとともに、魔王の姿はかき消えた。
ほどなくして、ユグネラとアイオンが。オズとロザリーが勇者のところへ辿り着き。
ロザリーの持ってきた秘薬で、怪我はなんとか生命に障らない範囲に。
そして町長がやってきて、勇者を乗せて。
皆で“昼と夜が平等な森”へ向かっていった。



勇者
「勇者を救ったのが、エルフにオークに
 ゴブリン、ケンタウロス、ドラゴンに……」

勇者
「……そして、ハーフエルフか。」

勇者
「我ながら、いい世の中をつくったなあ!」






メリジェがしたのは、手紙を書いただけ。
全ての夜を知る魔王に。
勇者の場所を教えてと、嘆願して。
その場所を皆へ伝えた、遠くからできた少ないことだけ。








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