Eno.599 吠え声  <<<<_※ - くらやみの森

※陰鬱な描写





















兄弟は皆、それに殺された。

弟は雇い先でうっかり大事な物を落としてしまって悲鳴を上げたから。
兄は怪我をした人を助けようとやむを得ず大声を上げたから。
それで末の妹は、家族を連れていかないでほしいと懇願するため泣き声を上げたから。

俺は声を上げなかったから、連れていかれなかった。

二度と帰ってこなかった弟、腕を落とされて瀕死になった兄、
縊られ声を発することのなくなった妹を見ても尚。


上げられなかった。




あの天の申し子に比べて、なんと醜いそのこころ



妬みに狂った畜生共に穢されてはならない、ならないのだ



"美しい"こころで言われたことに、何一つ。
醜く聞くに堪えないに囲まれても。



「……」



それが生きるための賢さだったのか、臆病だったのかと問われれば。
分かっている。俺だけは真に醜かったこと。



こうして声を上げないで、
何も知らぬまま生きてる子供元凶を、

本当はせめて殺してやりたい傷つけて死にたいと思ってること。







醜い音は穢れた心より発せられる。

美しい音は清い心より発せられる。

美しいものだけをひとは愛し、正しさを見出す。


そんな信仰。

そんな隔たり。

いつからか、会話を成すことはできなくなった。




(きっとこの国では物言わぬ花が一番賢い)









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