Eno.599 吠え声  <<<_ - くらやみの森

今から幾年前の話。まだ声が高く、喉の骨が出ていなかった頃。
同じ耳と尾をした兄弟が数人いた。

この国で、獣人は基本的に幼いうちだけ人前で喋ることを許されていた。
甲高い鳴き声を、天は気に召すらしかったから。

けれど人より声の成長劣化もまた早い。
だから、許されなくなるまでも早かった。

それでも、兄弟皆そこそこ上手くやっていたはずなのだ。
少なくとも自分は、いつかあの首輪をつけても問題のないようにと
文字の読み書きを学ばせてもらえる程度には。

家族の中でお前はいっとう賢くて声が通るからと兄が撫でてくれたのを今も覚えている。


全部、あれが産まれるまでの話だった。







『ぼくはあなたとお話したい』

『どうしてそれがいけないことなの?』



一番清く尊いとされたその声が自分に幾つも向けられる。

紙以外に返事を返してやる気などない(そもそれも嫌々だと示している)のに、
子供はいつまでも諦めてくれず、この国の信仰は『不自由』だと顔をくしゃりと歪めた。


『同じくらいお話ができて、同じくらい心がある』

『それを縛ってしまうのは、おかしいよ』


許されなかった経験など、ひとつもないんだろう。
この無垢無知なままの子供には。



知らないのだろう。
その喉から発せられる言葉がまさに、どんどん俺達の首を締めていることを。








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