Eno.435 トリサ Ⅲ:『今際』について - せせらぎの河原
ランドラがどこかに走っていったり、探したり、いろんな人と話したり。
『独り』を実感する時間があまりない。忙しいわけではないのだけれど、人が多くて常に話し声が聞こえてくる環境は、知らない人ばかりの場所ではとても助かる。
探索が始まれば、こうして会話することも少なくなるのだろうか。
そうなってしまったら、私は耐えられるのだろうか。
何だかんだ、今は夜も騒がしい。
頑張ろう。今は、一人だ。協力関係もできた。大丈夫。やっていける。
<関わった人たち>
■ナイ
名づける、ということに助言をくれた。
ランドラに名前を付けることは、あくまで他者のものと区別するに過ぎない。その考えはなかったし、おかげで人がランドラに名前をつける理由もよく分かった。
何となく、私たちと似た存在の雰囲気を感じる。教会に所属しながら、教会の意に反する我々のような。
■ベル
怖い人を見かけて怯えていたらホットミルクをごちそうしてくれた。恥ずかしいところを見られてしまった。ホットミルクは凄く美味しかった。また時間があったら行ってみたいな。
テラートのところへ帰りたい。元の世界へ帰りたい。皆、今頃どうしているだろうか。
■川辺の人たち
怖い人が多いらしい。今のところ楽しい人が多そうな……感じが……でも手が速そうな人がいる。うっかり武器を向けてしまったので反省。
ペテンを探すときはとりあえずここに来よう。
■チュチュ(チュチュヴィエッタ)
たくさん良くしてくれた人。魔法の話だとか、自分のいる場所の話とか、色々話した。眠れないらしく、眠らせる魔法をかけることになった。
教会の皆とは違う、対等な関係。厳密には上下関係はそこにはないのだろうが、どうしても年下で何もかも与えられる立場にあった私にとっては、それは縁のない代物だった。
話せてよかった。これから、役に立てるといいな。
この街には孤児は珍しくない。表こそは明るくにぎわっているが、路地裏に赴けばほら、あちらこちらにみすぼらしい人が転がっている。誰も見ないフリをして弱者から通り過ぎていく。弱者は弱者同士、お互いに奪い合って生きていくしかない。
清らかで、明るい『白の街』と揶揄されるここは、黒の街である側面は目立たないだけで、確実に存在している。
何もできない私は、逃げ出したからといって何ができるわけでもなかった。
盗みの術すら知らない私が、誰の助けもなしに生きていけるはずもなかった。
時折何かにぶつかった。もう痛いとも思わなかった。
聞こえてくる言葉も、自分が何をしているのかも、もう分からなかった。
ぐるりと視界が回転する。身体を地面に打ち付けたときには、遠い空が視界の先にあった。
感覚が消えていく。
身体が重くて指一本たりとも動かない。
空はこんな色だったっけ。
理不尽に死が近づいてくる。
あぁ、結局私は死ぬのだと思った。逃げ出した先に生はなく、逃げ出さなかった先にも死があった。変わらず、死ぬ定めだった。何も変わらず、抗うこともできず、ただ理不尽に始まり理不尽に終わる生だった。この世界は平等ではなく理不尽にあふれていて、不平等が平等に訪れるのだ。
だから誰も私を助けなどしない。私が死んだところで何も変わらない。
私は生まれてただ苦しんで、救いなどなく死にゆく定めであったのだ。
誰も助けてくれない。苦しくても耐えて、藻掻いて、終の時まで、誰一人として私の味方ではなかった。
そのことに強い恨みと怒りを抱いた。ただ生きたかった、それだけだというのに。生を喜ばれることすらなかった人間は、いかなる理由で生まれてくるのか。今そこで死にそうな人が居て、誰もが無関心で救える命を無視してゆく。
そんな傲慢で利己的な人が憎い。
されど私を助けなかった者たちを心から恨む心も消えてゆく。
こんな世界、私が壊せるものなら ――
『独り』を実感する時間があまりない。忙しいわけではないのだけれど、人が多くて常に話し声が聞こえてくる環境は、知らない人ばかりの場所ではとても助かる。
探索が始まれば、こうして会話することも少なくなるのだろうか。
そうなってしまったら、私は耐えられるのだろうか。
何だかんだ、今は夜も騒がしい。
頑張ろう。今は、一人だ。協力関係もできた。大丈夫。やっていける。
<関わった人たち>
■ナイ
名づける、ということに助言をくれた。
ランドラに名前を付けることは、あくまで他者のものと区別するに過ぎない。その考えはなかったし、おかげで人がランドラに名前をつける理由もよく分かった。
何となく、私たちと似た存在の雰囲気を感じる。教会に所属しながら、教会の意に反する我々のような。
■ベル
怖い人を見かけて怯えていたらホットミルクをごちそうしてくれた。恥ずかしいところを見られてしまった。ホットミルクは凄く美味しかった。また時間があったら行ってみたいな。
テラートのところへ帰りたい。元の世界へ帰りたい。皆、今頃どうしているだろうか。
■川辺の人たち
怖い人が多いらしい。今のところ楽しい人が多そうな……感じが……でも手が速そうな人がいる。うっかり武器を向けてしまったので反省。
ペテンを探すときはとりあえずここに来よう。
■チュチュ(チュチュヴィエッタ)
たくさん良くしてくれた人。魔法の話だとか、自分のいる場所の話とか、色々話した。眠れないらしく、眠らせる魔法をかけることになった。
教会の皆とは違う、対等な関係。厳密には上下関係はそこにはないのだろうが、どうしても年下で何もかも与えられる立場にあった私にとっては、それは縁のない代物だった。
話せてよかった。これから、役に立てるといいな。
この街には孤児は珍しくない。表こそは明るくにぎわっているが、路地裏に赴けばほら、あちらこちらにみすぼらしい人が転がっている。誰も見ないフリをして弱者から通り過ぎていく。弱者は弱者同士、お互いに奪い合って生きていくしかない。
清らかで、明るい『白の街』と揶揄されるここは、黒の街である側面は目立たないだけで、確実に存在している。
何もできない私は、逃げ出したからといって何ができるわけでもなかった。
盗みの術すら知らない私が、誰の助けもなしに生きていけるはずもなかった。
時折何かにぶつかった。もう痛いとも思わなかった。
聞こえてくる言葉も、自分が何をしているのかも、もう分からなかった。
ぐるりと視界が回転する。身体を地面に打ち付けたときには、遠い空が視界の先にあった。
感覚が消えていく。
身体が重くて指一本たりとも動かない。
空はこんな色だったっけ。
理不尽に死が近づいてくる。
あぁ、結局私は死ぬのだと思った。逃げ出した先に生はなく、逃げ出さなかった先にも死があった。変わらず、死ぬ定めだった。何も変わらず、抗うこともできず、ただ理不尽に始まり理不尽に終わる生だった。この世界は平等ではなく理不尽にあふれていて、不平等が平等に訪れるのだ。
だから誰も私を助けなどしない。私が死んだところで何も変わらない。
私は生まれてただ苦しんで、救いなどなく死にゆく定めであったのだ。
誰も助けてくれない。苦しくても耐えて、藻掻いて、終の時まで、誰一人として私の味方ではなかった。
そのことに強い恨みと怒りを抱いた。ただ生きたかった、それだけだというのに。生を喜ばれることすらなかった人間は、いかなる理由で生まれてくるのか。今そこで死にそうな人が居て、誰もが無関心で救える命を無視してゆく。
そんな傲慢で利己的な人が憎い。
されど私を助けなかった者たちを心から恨む心も消えてゆく。
こんな世界、私が壊せるものなら ――