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Eno.663 ジオグリス=エーレンベルク 強欲 - ひかりの森
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「村での暮らしは、まあ、いいもんでした。
裕福ではなかったけれど、いい人ばかりで。
特に不自由なく、両親にも愛されて育ちましたよ」
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「妹が出来た時は……なんというか、かわいい、というより
困惑の方が強かったんですよね」
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「あんまりいい兄じゃなかったと思います、俺。
妹の方がずっと俺よりしっかりしていて……
女心ってやつも全然わかんないし……何度蹴られたか」
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「でも妹は俺の事なんでも解ってたんですよ。
これだから兄貴は、って言ってくること全部ほんとうで。
もう何も言い返せなかったなあ……」
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「いや、なんで人に見せたくない本の場所まで知ってたんだろう。
流石に精神的に終わりましたよね」
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「もっと、あの子の事をわかってあげたかった」
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「いつだったかな……俺が金色の液を吐いたことがあって。
魔力液の類だったらしいです。
今も偶に猫が毛玉吐くみたいな感じで吐いてます」
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「……いや、それはどうでもいいか。
それで俺がなんらかの魔法持ってるって解って、
まあ騒ぎになりかけて……」
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「皆には感謝してます。一応、なかったことになったので」
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「色々検証して、空間転移だってわかったけれど……
使いこなすのが難しくて、結局たまに金色を吐く人に……」
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「……あんまり人に見られたくないんですよね。
羽根筆のインクと色同じなんですよ。
なんか嫌じゃないですか?」
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「まあそれもどうでもよくって。
どうせだからその吐いたヤツ使って魔術を齧りはじめたんですよ」
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「そしたら妹が、色々役立ちそうだな~って!
それだけでやる気出ちゃって。
何かの役に立てるならって」
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「……蓋開けたら、学ぶ方が楽しくて、のめりこんで
誰かに使うとか全然だったんですけどね……」
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「妹が死んで、皆が俺のせいで傷ついて。
もう涙も出ないぐらいショック……で」
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「保護された時に飯貰ったんですけど、
流石に食事も喉を通らない――」
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「なんてこと、なかったんですよね」
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「普通に美味くって。ああ腹減ってたんだな~って。
生きてて良かったなって。」
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「俺じゃなくてよかったって!皆死んだり傷ついたり、俺のせいなのに!
あんなに魔術師になるって言ってた子が腕吹き飛んで、母親も亡くして、
俺なに言われるんだろうって!?
挙句出血多量でその子は死んで!
ああよかったこれで何か言われることないんだなって!!」
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「俺に雪崩が付着してなくてよかったって心底安心した。
腕が無事でよかった!
村長にお前のせいじゃないって言われて嬉しかった!
助かる手段他にあったのに!俺が間違えたのに。
いいんだって、俺のせいじゃないって……」
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「はは……」
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「その時食ったもん、全部吐きました。気持ち悪くなっちゃって。
俺がこんなじゃなかったら無駄にせずに済んだんですけど」
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「なんでこんなことになっちまったのかなって。
ずーっと考えてました。
俺のせいなんですよね。村が滅びたの」
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「おかしくないですか?」
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「だってそもそもあんなのがいなかったら起こってないんです。
こんなこと。
許せるわけないですよね。許せないんですよ」
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「本当に」
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「あんなのがいなければ!
俺は俺の事しか考えられないクソ野郎だって知らなかった!
全部全部自分の欲で動いて、
自分を満たす事しか考えられない屑だって気付かなかったッ!」
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「俺の事なんかわかりたくなかった。
気付いて苦しんで、その苦痛でまた自分に酔うような気狂いだなんて、」
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「本当にいやだ。
誰かの事全然気遣えなくて、俺のためにしか、
こんなの知りたくなかった。気付きたくなかった」
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「醜い、ほんとうに醜い、
気持ちわりい、いやだ、そんなふうに
そんなに醜い、のに、」
誰よりも愛おしい、
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「あああああああああああああああああああああああああああああああああ」
何も考えることができなければ楽なのに。
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「復讐だって全部俺のためなんです。
俺が傷ついたから。嫌だったから。
それだけ」
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「妹の敵討ちだとか、村の人の無念を晴らすためとか、
世のため人のために災害を討つとか」
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「そういう理由で、動ける人間になりたかった」
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「でも、頭も感情も納得してるから、これはいいんです。
毒にしかならない災害なんて滅んでいいわけですし。
ああ、ひとのためになるんだな!って思ったらさ、
すごくワクワクしてきちまって」
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「はやく殺したい。」
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「俺が怪物だったら良かったなって何度も思いました。
だって俺がバケモンなら、こんな考え方してても
まあ人間じゃないしな~で済むでしょう?」
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「でも俺は人の腹から生まれたただの人間で、
天地がひっくり返ってもひとなことに変わりなくて」
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「これで自分の事怪物扱いしたら本物に失礼じゃないですか?
何言ってるんだこいつ……ってなるでしょ」
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「だから俺は人間なんですよ、れっきとした」
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「誰かのために動けるひとになりたかったんです。
なりたいんです」
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「どうしたらあなたのように自分を強いと思おうとできますか?」
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「どうしたらあなたのように自分を削って人に手を差し伸べられますか?」
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「どうしたらあなたのように嘘で誤魔化して普通が装えますか?」
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「どうしたらあなたのように何時でも駆けつけて救えるようになりますか?」
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「どうしたらあなたたちみたいに、誰かを気遣えるんですか?」
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「どうしたらこの全てを、諦めることができるんですか。」
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「どうか、教えてください。俺に。
俺、頑張りますから。何でも聞いて覚えます。
考えて、間違えないように、頑張りますから」
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「足りないんです――ずっと」
わからないばかりに全てが欲しい。