Eno.132 レイン 六翼 ※残虐描写が含まれますご注意ください - くらやみの森
レイン
「今でもよく覚えている」
「今でもよく覚えている」
**忘れられたならどれほどよかったか**
レイン
「あれは雨の日だった。高校に行けなかった俺はリトルクロウホームで、幹部の供回りをしていた。あの日は確か、最近入った信者の家族を説得して追い返したんだった」
「あれは雨の日だった。高校に行けなかった俺はリトルクロウホームで、幹部の供回りをしていた。あの日は確か、最近入った信者の家族を説得して追い返したんだった」
**倒錯的な思考誘導。狂信的なまでの視野狭窄。暴力的な対話に、人権の侵害**
**SNSを通した信者の懐柔と取り込みに加えて、警察沙汰になるすれすれの訪問と付きまとい**
レイン
「教団とずぶずぶになった俺に行き場なんかなかった。あってムショだったし、足抜けなんて今更できない。」
「教団とずぶずぶになった俺に行き場なんかなかった。あってムショだったし、足抜けなんて今更できない。」
**犯罪に両足突っ込んだことをしている自覚があったし、連中は新しい家族だった**
**そう思ってないとやってられない、根腐れしかけた端の倫理観が全部腐り落ちてしまえばよかった**
レイン
「受け入れてたんだ、いろんな理不尽を。俺は流されるままあそこについて、唯々諾々と連中に従って、このまま警察なりなんなりが来るまで、嘘ついて頭下げていくんだろうなって……」
「受け入れてたんだ、いろんな理不尽を。俺は流されるままあそこについて、唯々諾々と連中に従って、このまま警察なりなんなりが来るまで、嘘ついて頭下げていくんだろうなって……」
**雨の日だった**
レイン
「あの日家に帰ったんだ。信者の兄貴に手を出されて口の中を切る羽目になった。口の中が鉄さびの味がして、長い事じんじんしてた。俺達は教団の手配してくれた、安っぽいアパートに二人で住んでいた」
「あの日家に帰ったんだ。信者の兄貴に手を出されて口の中を切る羽目になった。口の中が鉄さびの味がして、長い事じんじんしてた。俺達は教団の手配してくれた、安っぽいアパートに二人で住んでいた」
レイン
「この頃になると、父さんより俺の方が優遇されてて、元々かみ合わなかった俺達の会話はもっと冷え込んだものになった。別れ間際の母さんみたいに」
「この頃になると、父さんより俺の方が優遇されてて、元々かみ合わなかった俺達の会話はもっと冷え込んだものになった。別れ間際の母さんみたいに」
レイン
「家の鍵は開きっぱなしで、玄関に俺のじゃない靴が一足。リビングの奥から呻き声がして」
「家の鍵は開きっぱなしで、玄関に俺のじゃない靴が一足。リビングの奥から呻き声がして」
レイン
「廊下に俺のじゃない安っぽいジャケットが落ちていて、その近くに父の裏返った靴下と上着が落ちていた」
「廊下に俺のじゃない安っぽいジャケットが落ちていて、その近くに父の裏返った靴下と上着が落ちていた」
レイン
「リビングで、俺が憧れた白金と、覆いかぶさる父の背中が」
「リビングで、俺が憧れた白金と、覆いかぶさる父の背中が」
**ぶちっと何かが切れた音がした**
それが怒りだったのか殻が割れた音だったのかわからない俺には何もわからないが父がとてつもなく胸糞悪くて気分の悪い行為をしているのだけが見えて相手はよりにもよってでというか俺と歳が近いガキって言うのがもう信じられなくて頭の奥からばさばさばさばさ何かがうるさくて神様神様ああくそがそんなものがいるならどうしてなんとかしてくれないんだこれをどうにかしてくれないんだよ試練なんかいらねえからとっととよくしてくれ何もかもを俺が悪かった俺が悪かったから謝ったらもっと前に戻してくんないかな許せねえ畜生お前のお前のせいでお前の振り上げる拳の下ろし方を今更思い出して遠い日の家の事を思い出したなんでそもそもお前の言葉に従わなきゃならないんだよ悔しい苦しい料理作りたいって思うのは悪いことだっけ気持ち悪い頭の中が殻の割れるとんとんとんとん吐き気がする目の前が赤い頬が痛い畜生こいつ殴りやがったな父親なのに父親の分際で俺より下の癖に気に入られてない癖にそんなんだから母さんがうるさいうるさい黙れ黙れ黙れ爺ちゃんが怖かった癖に黙ってろ役立たず俺の人生お前のせいでめちゃくちゃだ頭が痛い苦しい息ができないスノードームを振り上げる目の前が滲む赤い液体が頬にかかる爆発した感情が殺せない流せない濁流みたいに思考が攫われる目の裏が赤い外の雨の音がうるさい許せない誰もかれもが妬ましくて憎い憎たらしいどうして俺俺だけ俺だけがどうしてどうしてこんなことになっちゃったんだろう俺達ってもうやりなおせないのかな警察も助けてくれない母さんは俺を見捨てて爺ちゃんはこんな俺を見たら店なんか継がせてくれないだろうな悲しい愛しい俺だってこんな事したくなかったこんな事したくなかったけど父さんがあの子に手をだすから吐きそう目の裏が熱い刺青が熱い痛い熱い声がする誰かの声がする誰だっけ思い出せない嫌い嫌いだ嫌いうるさいって頼むよやめてくれ開かれて孵るとこなんかなにもなくてきらきらきらきら肌が熱くて痛くて刺青の文字が痛みが鋭い嫌い嫌い嫌いリトルクロウホームでは誰もが誰もが平等ですどこが嫌いなにもが嫌い嫌い外に出たい嫌い学校に行きたい幼馴染に会いたい友達が欲しいこんなところは嫌だ嫌い嫌い嫌い嫌い何もかも正しくない正しくいたいわかってるこんなのは俺の妄想だ嫌い馬鹿馬鹿しい嫌い父親の体が痙攣している嫌い息が苦しい疲れたのに拳を上げるのを辞められない天井は遠く空は雨ですすり泣く声が聞こえてなにもかもが嫌になるどうしてこんなことになったんだっけどうしてこうなるしかなかったんだっけ仕方のないってみんな頼む言ってくれ俺のせいじゃないんだろ俺のせいじゃないッて言って嫌い俺が悪かったのかよ何もかもどこかで俺が拒否していればもっとうまくまわったの嫌い嫌い嫌い誰も助けてくれないだろ助けてくれなかったじゃないか嫌い頭の奥が真っ赤になって目の前が真っ白なのに息だけが青くて汗が落ちて滴って汗じゃないものが広がって嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い卵を割ったのを思い出したオムレツをつくるために割り開くかき混ぜるほうれんそう嫌い加熱して温まるフライパンとバターの匂い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌祖父の手の皺と目の皺父がはじめて口にしてくれた俺の手料理美味しいって言ってくれたよねい嫌いスノードームは俺のお土産にと父さんが遠くの出張で買ってきてくれたものだった母さんはそれを見てあらいいわねって嫌い嫌い祖母は時々俺と一緒にスノードームを傾けてきらきらした中身を嫌い嫌い嫌い嫌い床に流れるのはスノードームの液かそれとも卵の白身か赤いなどうして赤いんだっけ嫌い嫌い嫌い頬をぬるついた液が張り付いて乾いて皮膚がつっぱる嫌いパン生地を叩くみたいに振り下ろされる手を止められない嫌い何かに突き動かされるみたいに嫌い嫌い嫌い嫌い息が詰まる誰かが見ている苦しい悲しいどうしてこうなってるんだっけ涙が出てきた嫌い父さん俺がいやだって言ったら耳を傾けてくれた?嫌い嫌い父さん俺が助けてっていったら助けてくれた?嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌いとうさん俺がやめてっていったらヤめてくれた?嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い父さん嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い父さん俺があの時一緒に食べよって待ってたらこんなところに籠らなくてすんだ?嫌い嫌い嫌い嫌い血の匂いがする嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い何かに見られている嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌いなにかが羽ばたく音がする嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い雨音が止まない嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い赦しを乞いたくて仕方なくて嫌い嫌い嫌い嫌い割れた頭蓋骨は戻らない嫌い嫌い嫌い嫌い卵が割れる嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌いそれとも孵るのか嫌い嫌いだとしたら生まれるのはなんだったんだろう嫌い嫌い嫌い刺青が熱い嫌い神様の実在を頭の奥の奥で信じている嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌いきら
われる
レイン
「しんだ」
「しんだ」
**父はぴくりとも動かなくなっていた**
**手に持った割れたスノードーム**
**呆けた目であの子が見ている**
**俺は最初、行った事に顔色を悪くし、吐いて、警察に出頭を考えたが**
**自己保身と、周囲への信頼のなさと、求められたことを理由に逃げた**
**逃走に次ぐ逃走は、あの子がサポートしてくれるからある程度形にはなっていたが**
**年端のいかない、まともな伝手も学校も出てない二人旅なんて追い詰められるのはアッと言う間で**
**最後に選んだのは高い所からの飛び降りだった**
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