Eno.371 リン  陽光と夢 - ひだまりの高原

前日は荒れていた天候も快調し、暖かな日差しと陽気に当てられる。

こういうなんでもない日々こそを求めていたのだ。
心地の良さに抗うつもりも無いので瞼を下ろし、意識を手放した。



硝煙と鉄、血と土煙の臭い。眼前に広がるのは自身と他者の命を懸けた忌むべき面倒ごと。
そうだ。今は奪い奪われる戦の真っ只中だ。

リン
「戦地で指揮を執るのは私の役目だ」


敵は殲滅する。綺麗ごとなんてこの場には存在しない。
剣を取り、銃を取り、魔を持って目の前の敵を討ち滅ぼす。

相手方の尉官の思考を読め。どういう風に勝利を得ようとするのかを読め。何をされると不都合なのかを読め。

リン
「お前の望む答えを用意してやる。誤った答えをな」


誤った勝利への道筋を用意してそこを叩く。戦は戦闘能力の高い方が勝つ訳ではない。
戦況を適切に見極め、先に勝利条件を満たした方へ軍配が上がるモノだ。

駒を上手く動かし、相手の大駒を手中に収める。ただそれだけ――



幾度と行われた祝勝会。
私には不要だと何度言っても聞かん馬鹿共の宴。
勝利に導いた立役者が不在では示しがつかないという、適当な理由と共に付き合わされる面倒な集まり。

乾杯の音頭をとる者が居ないと酒も飲めぬと言うアホ共に向かい合う。

ワインが注がれたグラスのボウルを持つ。
立場上、上に立つ者はグラスを倒せないのでステムなど持たない。
そうして掲げて、待てをされた犬に良しと言うように口を開く。

リン
「さっさと飲めアホ共」


酒や煙草の類も本来なら特に必要では無いのだが、
私が嗜好品を受け取れば、奴らも手に取りやすくなるという理由があったので嗜むようになった。

ビールが好き? なら、私はワインでいい。どれでもいいからな。
銘柄がある? 知らん。煙が出たらどれも一緒だろ。

ようやく皆が思い思いの物を手にして騒ぎ始める。
ここまでしないと満足に騒ぐことも出来ない不憫な奴らは本当に面倒だ。



リン
「……少し寝ていたか」


今、私がいるのは元の戦場でも国でも世界でもない。全く別の異世界。
望む夢や希望もあまり持ち合わせずに向かう事を決意した新天地だ。

奪った事に変わりはないのでその分は生きよう。
奪われる事は癪に障るのでそうならないようにしよう。
奪い合う事が無いよう対等な取引を心掛けよう。
駒との関係を間違えないように友好関係には気を払おう。
早死にする馬鹿共にならぬよう、良い奴などにはならないようにしよう。

その上で馬鹿共が口にしていた夢物語である
『望んだモノが自由に手に入る場所』を当面の勝利目標に据えてやろう。

先程見たばかりである懐かしい面々の浮かれた様子がまだ脳裏に残っている。

リン
「なんとも怠惰な夢だ」









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