Eno.165 ゆきみ  **** - たそがれの頂

***5***

ある時、思いきって、おじいさんにいいました。

ぼくは、あの時たすけていただいた小鳥です。
おじいさんに、恩返しがしたくて、やってきました。
どうすれば、恩返しができますか。
どんなお願いだって、かなえてみせます。

おじいさんは、わかっていたと、いいました。
そんな羽をもつ人間は、いないから、と。

それから、ながい時間をかけて、お願いを考えてくれました。
日をまたいで、ようやく口に出たことばは
最後までそばにいてほしい、というものでした。

とても恩返しになるとは思えない
かんたんな、お願いでした。

*******

……そうして。
そうして、おじいさんは最後に、ぼくにこういったのです。
おまえの幸せを見つけなさい、と。

幸せを見つけることは、そう難しくはありませんでした。
この島にあつまった人たちは、みんな優しくて。
たくさんの、ちいさな幸せをくれるのです。

幸せになるのがこわいと、そう思う時もありました。
おじいさんの言葉の真意がわからなくて、不安になる時もありました。

でも、今はただ、この幸せのなかで
ゆっくりしてみても、いいのかも、しれません。

…………
最初に、ちいさな幸せをくれた方がいました。


色とりどりの飴玉が入った瓶。
飴は食べてしまって、からっぽになったけれど。

いれかわりに、目にはみえないあたたかな何かが。
瓶いっぱいに詰まってゆく気がするのです。

いちばん最初の、ちいさな幸せ。
からっぽのこころに、触れてくれたあなたに。
こんどは、どんな恩返しが、できるでしょうか。
ぼくは、あなたに幸せをあげることが、できるでしょうか。








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