Eno.243 ヘリオトロープの旅人 新たな旅の第一歩 - はじまりの場所
幼い頃、誘拐された俺を助け出してくれたのは『鳥』を背負った冒険者だった。
今でも鮮明に思い出せる。
町を歩いていたら見知らぬ人間に馬車へ押し込まれて、町から遠く離れた森の中にある小屋に閉じ込められたこと。
幼いながらに、最悪の場合は死の覚悟をしなくてはならないだろうなと思ったこと。
自力でなんとか脱出しようとした結果、怒りをあらわにした誘拐犯が魔法を暴発させ、危うく焼け死ぬところだったこと。
屋根を吹っ飛ばす勢いで破って、飛び込んできた一人の冒険者のこと。
その冒険者が身にまとうローブに――背の部分に描かれた紋章は、その中に描かれた鳥は、俺にとって自由の象徴になった。
その日からずっと憧れてきた。
自分を助け出してくれた冒険者に。
冒険者という、自由を形にしたかのような存在に。
憧れて、願って、自力で叶えることを選んで――そうして『冒険者』として歩き続けて、今。
俺の目の前には、どこまでも青く澄み渡った空が広がっている。
手を伸ばせば簡単に届きそうなほどに近くて、まるで。
――憧れ続けた、鳥になったかのような気分だった。
走らせていたペンの動きを止め、ゆるりとした動きで改めて空を見上げる。
本当に美しい空だ。自分たちの故郷である世界の空も綺麗だと思っていたが、この場所で目にする空はそれ以上の美しさを持っているように感じる。
それは、空を遮るものが少ないからか。それとも、世界が異なるように広がる空も異なっているからか。
あ、でも世界が変わると空も変わるっていうのは我ながら良い思いつきかも。
だって『世界』が違うんだもんな。『世界』という入れ物が違うんだから、広がる空も一見同じなように見えても同じなわけがない。
うん。もう少し肉付けをして、次にあの子をつつくときのネタにしよう。
一人で小さく頷き、唇の両端を持ち上げながら、リローヴィリャ・サリスティラ――もとい、リローヴィリャ・ヘリオセリア・アルヴァハウルは同じパーティを組んでいる彼女の姿を改めて思い浮かべた。
ペスカーシァ・フィオレッサ。柔らかな春の色を宿した少女。
まだまだ駆け出しの冒険者だが、前に立つと鋭い拳法と軽やかな身のこなしで魔獣を翻弄し、見事に打ち倒してみせる実力の持ち主。
心優しく素直で、ドロドロとした汚泥のようなものに染まっていない純粋さを持った彼女の姿は、いつだってリローヴィリャの目に眩しいものとして映る。
……その純粋さが可愛くて、反応が面白くて、ついつい揶揄ってしまうのだが。
まあ、繰り返し嘘に触れていたら他者がついた嘘を見抜きやすくなるかもしれないし、許してほしいところだ。
冒険者をしているぐらいなのだ、その道を選ぶ何らかの理由が彼女にもあるのだろうけれど。
叶うなら、あの純粋さは長く長く――叶うならばずっと残っていてほしいものだ。
あんまりにも騙されてくれるから、そこはちょっぴり心配になるけども。
まあ、あの子も一人前の冒険者だ。きっと大丈夫だろう。
自由に揺れる、可憐で頼りになる桃色の花。
今回の冒険も彼女と一緒なら、きっと退屈しないものになるはずだ。
今でも鮮明に思い出せる。
町を歩いていたら見知らぬ人間に馬車へ押し込まれて、町から遠く離れた森の中にある小屋に閉じ込められたこと。
幼いながらに、最悪の場合は死の覚悟をしなくてはならないだろうなと思ったこと。
自力でなんとか脱出しようとした結果、怒りをあらわにした誘拐犯が魔法を暴発させ、危うく焼け死ぬところだったこと。
屋根を吹っ飛ばす勢いで破って、飛び込んできた一人の冒険者のこと。
その冒険者が身にまとうローブに――背の部分に描かれた紋章は、その中に描かれた鳥は、俺にとって自由の象徴になった。
その日からずっと憧れてきた。
自分を助け出してくれた冒険者に。
冒険者という、自由を形にしたかのような存在に。
憧れて、願って、自力で叶えることを選んで――そうして『冒険者』として歩き続けて、今。
俺の目の前には、どこまでも青く澄み渡った空が広がっている。
手を伸ばせば簡単に届きそうなほどに近くて、まるで。
――憧れ続けた、鳥になったかのような気分だった。
走らせていたペンの動きを止め、ゆるりとした動きで改めて空を見上げる。
本当に美しい空だ。自分たちの故郷である世界の空も綺麗だと思っていたが、この場所で目にする空はそれ以上の美しさを持っているように感じる。
それは、空を遮るものが少ないからか。それとも、世界が異なるように広がる空も異なっているからか。
リローヴィリャ
「なーんて。考えても、情報が不足してるからわかんないけどさぁ」
「なーんて。考えても、情報が不足してるからわかんないけどさぁ」
あ、でも世界が変わると空も変わるっていうのは我ながら良い思いつきかも。
だって『世界』が違うんだもんな。『世界』という入れ物が違うんだから、広がる空も一見同じなように見えても同じなわけがない。
うん。もう少し肉付けをして、次にあの子をつつくときのネタにしよう。
一人で小さく頷き、唇の両端を持ち上げながら、リローヴィリャ・サリスティラ――もとい、リローヴィリャ・ヘリオセリア・アルヴァハウルは同じパーティを組んでいる彼女の姿を改めて思い浮かべた。
ペスカーシァ・フィオレッサ。柔らかな春の色を宿した少女。
まだまだ駆け出しの冒険者だが、前に立つと鋭い拳法と軽やかな身のこなしで魔獣を翻弄し、見事に打ち倒してみせる実力の持ち主。
心優しく素直で、ドロドロとした汚泥のようなものに染まっていない純粋さを持った彼女の姿は、いつだってリローヴィリャの目に眩しいものとして映る。
……その純粋さが可愛くて、反応が面白くて、ついつい揶揄ってしまうのだが。
まあ、繰り返し嘘に触れていたら他者がついた嘘を見抜きやすくなるかもしれないし、許してほしいところだ。
リローヴィリャ
「あの純粋さはずっと残っててほしいなぁ。貴重なものだし」
「あの純粋さはずっと残っててほしいなぁ。貴重なものだし」
冒険者をしているぐらいなのだ、その道を選ぶ何らかの理由が彼女にもあるのだろうけれど。
叶うなら、あの純粋さは長く長く――叶うならばずっと残っていてほしいものだ。
あんまりにも騙されてくれるから、そこはちょっぴり心配になるけども。
まあ、あの子も一人前の冒険者だ。きっと大丈夫だろう。
リローヴィリャ
「……お、ペスカ。日記書いたんだ。どんな感じになった?」
「……お、ペスカ。日記書いたんだ。どんな感じになった?」
自由に揺れる、可憐で頼りになる桃色の花。
今回の冒険も彼女と一緒なら、きっと退屈しないものになるはずだ。
リローヴィリャ
「えっ、おれの日記? ……さて、何を書いたと思う~? ペスカの予想を聞かせてよ」
「えっ、おれの日記? ……さて、何を書いたと思う~? ペスカの予想を聞かせてよ」