Eno.693 レヴァンダ  ■日記その⑤ - まぼろしの森林

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魔術の勉強を始めてからできる事は増えていき、成長と共に活動範囲も広がって行った。
ただし、様々な魔法の勉強もしてもなお、自分が石化させた物を戻す魔法だけは、
いつになっても完成できないでいた。
何が足りないかは明確だが、だからと言ってうまくいかない事もあるのだ。




そしてふと、自分は魔術が好きなのか、嫌いなのか分からなくなった。

行き詰ってしまったから、余計な事ばかり考えてしまうのだろう。
自分にとって魔術は『生きるための術』なのか、それとも『好奇心の賜物』なのか。
もし、この世界があらゆる生き物に平等だったら、魔術など学ばなかったのか。
そもそもこんな血など引いてなかったら?






だから、確かめてみたくなった。
偏見のない世界で、身を守る必要のない世界で、果たして自分は魔術の勉強を続けるのかを。
もしかしたら自分にとって魔法など、ただ生きるための道具でしかないのかも知れない。
そうだとしたら、なんて空しい道具なんだろう。
必用の無い道具など、価値があるように思えない。






そして、知りたくなった。
足りない物を獲得し、石化を解除する魔法に到達する事が出来るのかを。
何も愛を知らない訳じゃない。他人を愛する前に、自分を愛せていないのだと思う。
この血を呪いだと、穢れた種族だと思わなくていい未来がどこかにあるのなら見てみたい。


世界を移動する術を手に入れるのに、さほど時間はかからなかった。
それほど魔術に触れていても、自分の中で答えは見つかっていない。
きっと、自分に無い物を集めて行けば、自ずと形は浮き上がってくるだろう。

そう信じて、旅に出る事に決めた。







ララバイ
「ピ!」

ララが何かを手に持って、こちらへ手渡している。
レヴ
「ん、どうしたの?」

それを受け取り、手紙だと理解する。
ありがとうと礼を言い、彼女に背を向ければ、やっと目を開ける。

レヴ
「なんだこれ。…招待状?」






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別に、暗く悲しい話なんて無い。
世界はこういう物なのかも知れないのだから。

ただ、納得したいだけだ。
生きる意味、というやつを。












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