Eno.165 ゆきみ  *** - めざめの平原

***3***

人間の姿になれたぼくは、また
おじいさんをさがして、雪山じゅうを歩きました。

人里をすこし離れた山小屋に、おじいさんは住んでいました。
コンコンと戸を叩けば、ゆっくりと引き戸が開かれました。

ぼくは、人間の声で、こういいました。

道に、まよってしまって。
どうか、ひとばんだけでもいいので、泊めてください。

おじいさんは、いぶかしげにぼくを見つめたあと
何もいわず、家の中へ入れてくれました。

そうしてぼくは、恩返しをするために
おじいさんの家の掃除をしたり、ごはんを作ったり。



ひとばんのうちに、できる限りのことをしよう、と思ったのですが
どうにも勝手がわからず、逆にめいわくをかけてしまうのでした。

***4***

おじいさんは、そんなぼくの様子にあきれて。
でも、ひとつひとつのやり方を、ていねいに教えてくれました。

掃除のしかた。ごはんのつくりかた…のお手伝い。
薪のわりかた。火のつけかたに、人間としての生活のしかた。

ぜんぶぜんぶ、教えてくれました。
けして口数はおおくなかったし、めったに笑うことのない人でしたが
ずっとずっと、やさしくしてくれました。

そうして、ひとばんだけのはずが
気づけば四季をぐるりとめぐるほどの時を、共にすごしておりました。

そのうち、ゆきみという名もあたえられて。
恩返しをするはずが、たくさんの恩をいただいてしまったのでした。








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