Eno.483 ニグラ・アズホッグ  ある日:ニグラとMr.フーディ - はじまりの場所

ニグラがストロールグリーン島にやって来て少し後(プロローグ後)のこと。
ニグラ
「………。」

ハナコと離れたニグラは、自分に付いて来たランドラをつかみ上げ、まじまじと観察していました。
その目はまるでネズミを捉えた猫のように爛々としていて、今にもランドラに噛り付いてしまいそうです。
でもそうはせず、時たまに角度を変えながら、ただただじぃっと見つめています…
ニグラ
(形状からしてマンドラゴラの類でしょうか…故郷では"そういう形と性質を持つただの植物"だったのですがこの世界ではそうもいかないようですね。意思疎通できる存在を調理するというのは私の信条には反しますから食材にはできなさそうと……意思疎通できるということは精霊の類でしょうかね。人まねが好きと言うことは魔法士の使い魔として扱われたりもするのでしょうか?そもそもここに魔法士と言う概念が…)

ランドラ
「ド、ドララ……

ニグラ
「おっと!安心してください、おしゃべりできる子を食べたりなんてしませんよ。ふふふ…」

それの怯えた様子を見て、ニグラは引っ掴んでいたランドラをそっと下ろしてあげました。
さっきまで葉の部分をわっしと掴んでいたとは思えないくらい、丁寧に。



さて、そうしてからもしばらく観察が続きました。その間、ランドラもずっと怯えています。
ずっと震えているのを見て、流石におかしく感じたニグラは声を掛けます。
ニグラ
「どうしたんですか、寒いんですか?それとも水が足りない?」

ランドラ
ドド…ドラ…」

ランドラはふるふると、僅かにしかない首を横に振ります。
それを見た彼は、何か思いついたようにニヤリと笑いました。
ニグラ
「…ああ!もしかして、お腹が空いてるんですか?」

ランドラは彼の圧に圧倒されただけなので、首を横に振りましたがニグラはお構いなし。
気にせず鞄を漁って、ランドラに何かを差し出しました。
ニグラ
「足しになるかはわかりませんが、キャンディーならばおひとつどうぞ♪」

それは、昼空柄の包みをした棒付きキャンディロリポップ
ニグラが包みを器用に取ると、中はソラニワの空のように透き通った青い色をしています。
彼はキャンディを、そっとランドラに手渡します。
キャンディを受け取ったランドラは、さっきの恐怖が嘘みたいに喜びました。
頬張ると、どの果物でもない不思議な味で、ほんのりシュワシュワしています。サイダーの味です。
このランドラにとっては初めての味でした。
ランドラ
「ド~ララ~!!」

ニグラ
「もう一つほしいんですか?駄目です、1人につき1日1つですよ。」

あっという間に食べ終わると、ランドラはもっと頂戴!と言わんばかりにニグラの周りをぐるぐる駆け回ります。
落ち着いて、と声をかけますが、止まる気配は一向にありません。
呆れて大きなため息を吐いたニグラは、駆け回るランドラを抱きあげてこう言いました。
ニグラ
「…ならばこうしましょう!アナタ、ワタクシについて来て下さい。ワタクシの役に立ったらキャンディを差し上げます。ね?」

ランドラ
「ドラ!!」

ランドラは元気よく返事をしました。わかった!頑張る!とでも言いたげな様子です。
承諾したであろうことを確認すると、ランドラを降ろしてそっと頭を撫でました。
そうしてから、少し顎に手を当てて考え事をして……
ニグラ
「ふふ、そうと決まればお散歩しましょう!帰ってきたらどこかでご飯食べましょうね、Mr.フーディ食いしん坊さん

Mr.フーディ
「ドラ?…ドラ!」

Mr.フーディ食いしん坊さん
ニグラがとっさに名付けた、このランドラの名前です。
なんてことのないあだ名の様な名前だけど、ほんの一時の冒険ですからそれでいいか、と思って彼はそう名付けたよう。
ランドラも一瞬悩みましたが、自分のことを呼んでいるのだと理解して、ぴょんぴょん跳ねながらまた元気よく返事をします。
ニグラ
「さあ、行きますよ! まだ見ぬ食材が私たちを待っています!」

Mr.フーディ
「ドラ~!」

そうして、化け猫男ぽっちゃりランドラの小さな冒険は幕を開けたのでした……


【暴君】
「彼は我が道を行く人だ。しかし同時に、人を引き付ける魅力を持つリーダーでもある。」
【崩壊】
「彼は目の前の全を燃やし崩壊する力を持つ。そう再々使うことはないけれど。」

暴君であるのは、その猫ではなかったのかもしれない。








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