Eno.471 アニア・ナムティア  閑話 - Ⅱ - めざめの平原



果て無き雲海を進む飛行船の中で、
神の庭を照らす太陽の色へと目を浸す。

絵画のように美しき花の庭園は
名も知らぬ草花と、それを抱く陽光の香りに満ちていて
どこまでも広がる平穏の色は、気怠さの中にある心地良さと
ぼんやりとした意識が育む眠たさを、小さな背中の奥底へと与えてくれた。





「………。」


スタッフに手渡された三角貝を片手で転がす。
随分と便利なものを手に入れられた一方で
"宛"探しの口実が減ったことへの落胆もまた1つ。



「……、どうしよっかな」


ここに来てからというものの、日々の生活は
道すがら気になった誰かの懐を借りる腹つもりでいたのだが。
そうすることも無いほどに、この庭園は人の営みに満ちあふれている。

来場者をもてなすのに十二分な施設の数々に
遠方に出たとして、手元にある"これ"があるとなれば
みなしごの真似事をしては違和感もあろうもの。

どちらか言えば、少女はとっては"足りる"方が不都合なものだった。



「―――。」



気怠い溜息を1つ付いて、ふと思い出したかのように、
右腰にぶら下げていた、小さな袋へと手を掛けた。


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