Eno.775 鳩当 心安  残り時間。 - はじまりの場所

 夢を見た。

 人工呼吸器。沢山の管。手の中にはナースコール。
 スマートフォンは、重くてもう持てない。
 視界はずっとぼやけたままで、寝返りを打つ力も出ない。

 時折、私の様子を見にくる人達がいる。
 話しかける声すら遠い。
 時折、お母さんが耳元で喋ってくれる。
 だけど、私から出る声は、掠れて、小さくて、言葉にならない――。

 ――目が覚めたとき、決まって、心拍は強く速く、恐ろしい憔悴感に襲われる。

 あれは、ほんの2週間前までの私で。
 あと2週間したら、またああなってしまう。


「……嫌だ。」


 ――気持ちを声に出したとして、変わりはしない。
 私はあそこに戻されて、心臓が止まるその時まで、自分の死を待ち続けることになる。

 そして、『その後』なんてものが無いことを、私は知っていた。


「……だから、私はここに来ることにした。」


 天使は云った。

『どうか、良き余生を。』








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