Eno.693 レヴァンダ  ■日記その④ - せせらぎの河原

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時に、メドゥーサの血を引く者は、女子が生まれやすい。
出生の逸話からして、そういう仕組みなのだろう。
だから、女子に比べて男子は希少になる。
つまり、高く売れるという事だ。

なら、どうやって繁栄していくのか。
単純な話、男子は皆、戦う力を持つように育てられる。
ある物は剣術を、ある物は柔術を、ある物は学でうまく世渡りをする。
そんな中でも、私が選んだのは『魔法』だ。




メドゥーサとはいえ、ヘビの特性を色濃く持つ一族では、いくつかの弱点が挙げられる。
ひとつは、静止している物を視認しづらい。
ひとつは、温度の無い物を認識しづらい。
これは、戦う事において大きな弱点だった。

それをカバーできるものとして、魔法は選ばれた。
他者の視界を借り、火を起こして寒さから凌ぎ、石化させた物を元に戻す術さえある。
最初は、誰よりも強くなるという向上心から、夢中になって魔術を学んだ。

***




レヴ
「僕って案外、嘘つきなのかもなぁ…」

レヴ
「まあ、人を傷つけるための嘘じゃないから、許して欲しいよね」


焚き木を消し、使っていたマグカップの洗浄を終え、川から山へと入っていく。
人気のない所で、また日記の続きを書く作業に戻るのだ。
髪をまとめるリボンを解き、雑に頭を振れば…髪のヘビは自由に動き回る。

レヴ
「あぁこら、文字書くから邪魔しないで」


時折、日記に興味を持ったヘビをいなしつつ、つらつらと筆を進める。
今回は、家出したお姫様の事でも描こうかな。
心優しくて、お転婆な女の子の事を思い返しつつ、1つの言葉に引っかかっていた。

レヴ
「『さみしくない?』…かぁ」

レヴ
「魔法の勉強は楽しかったと思うし、群れは別に必要ないと思ってたし…」

レヴ
「多分、寂しくなかったのは本当だと思う…けど」


うーん、と唸りながら考え込む。

が、一度文字を書く事を中断して、日記の端に落書きを始める。
傍らに居た、ランドラの事を眺めながら。


レヴ
「こんな感じ?」


ピンク色の体、根菜の様な雰囲気…葉っぱはそれっぽくは無いけど。
花の色は紫?そしたら、もしかしてハナダイコンの仲間かも知れないな。
そんな注釈を書きながら、かきかき。


レヴ
「ララはこんな…こんな感じだっけ?ふふ」


自身の使い魔である、コウモリ悪魔の姿。
契約してから長い間、人型をとっているから本来の姿が思い出せない。
『現在迷子中』などと書きこまれる。

レヴ
「…そういえば、なんで使い魔なんて契約しようと思ったんだろう?」


ふと、その出会いを、思い返す。


あの日は雨に風に大荒れで、寒さも酷かったので、洞窟の中で身動きが取れなかったのを覚えてる。
本来だったら、自身にとってコウモリは食料の一つだ。
だけど、ボロボロで動けず、誰にも見つからないように洞窟の隅に隠れる彼女を見つけた。
辺りに仲間はおらず、不運にも捕食者自分に見つかってしまった彼女は、それでも威嚇をしてきて。
そんな彼女の姿を見て…

レヴ
「どう思ったんだろう。哀れだなって?可哀想だなって…?」

レヴ
「それとも、同情……」




しばらくの沈黙。
せせらぎと、風にそよぐ葉音だけが耳に届く。




レヴ
「いたっ」


沈黙を破ったのは、一匹の髪のヘビだった。
何かの気配を感じ、じっとしているレヴに気づかせようと腕を噛んだのだ。

レヴ
「噛まなくても良くない?まったく。…そろそろ移動しようか」


日記を閉じ、改めて髪を結い直す。
幻術はソレを、まるで人間の髪と同じように見せる。
尻尾と同じ色をした髪を靡かせ、移動を始めた。
 








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