Eno.165 ゆきみ  ** - はじまりの場所

『おまえの幸せを見つけなさい』



最後に聞いたのは、そんな言葉でした。



***1***

その人と出会ったのは、ぼくがまだ、シマエナガと呼ばれる
小鳥そのものであったころの話になります。

今ではもう、あまり思い出せませんが
ぼくは他の兄妹たちよりもずっとにぶくて、まぬけで。
だから、うまく飛べないうちに巣からおっこちたのも、当然のことでした。

飛べない雛鳥が巣からおちれば、あとに待つのは死だけです。
ぼくはそれで、死ぬはずだったのです。



けれど、そんなぼくを拾い上げた人間が、いたのでした。
それがぼくの命の恩人で、のちに親のような存在となる、おじいさんでした。

おじいさんは、ぼくを巣へと戻してくれました。
たった、それだけ。でも、たったそれだけのことで、ぼくは救われたのです。

***2***

大きくなり、巣立ったぼくは、兄妹たちからひとり離れて
雪の妖精と呼ばれる存在に、会いにゆきました。

ぼくたちも、人間にそう呼ばれることがあるみたいですが
本物の、雪の妖精です。

ぼくは雪の妖精をさがして、雪山じゅうを飛びまわりました。
春をこえ、冬がおとずれたころ。
ようやく出会えた妖精に、お願いをしました。

どうか、どうか。ぼくを人間にしてください。
どうしても、あの人に、恩返しがしたいのです。

雪の妖精はいいました。

わたしの力で、おまえを人間にしてあげよう。
けれど、二度と小鳥の姿にもどることはできないよ。

それでもかまいません、とぼくはいいました。
雪の妖精はにんまりと笑うと、ぼくに魔法をかけました。

そうしてぼくは、人間の姿を手に入れたのです。








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