Eno.357 キョク  前日譚 霧崖国の三が日 - めざめの平原

——霧崖国にて、年が明けたばかりの頃。

サンサ
へっっっぷし!!!

サンサ
「さぶぶぶさぶぶぶぶ……」

船頭
「……あけましておめでとうございます」

サンサ
「あ!
 あけおめ!」

船頭
「寒い中お待たせして申し訳ございませんわ。
 出航のお時間ですよ」

サンサ
「待ってましたーー!」




サンサ
「すげえな〜これが船渡しの術か〜
 まじで霧やべえ〜なんも見えね〜」

サンサ
ぺぇっっっっし!

船頭
「あら、風邪をひいてしまいましたかしら……
 ですが、もう時期暖かくなりますよ」

船頭
「……『春柱島はるばしらじま』です」




サンサ
「あ……あ……」

サンサ
あったけーーーー!!!

サンサ
うめーーーー!!!

サンサ
きれーーーー!!!

サンサ
すげーーーー!!!

サンサ
「わーーーーー……」

サンサ
迷子んなった!!!
 どこだここ!!!」

サンサ
「一面花畑でもうわかんねえ……
 ひょっとして死後の世界か。
 オレは凍え死んだァ……」

サンサ
「……?」




サンサ
オギャーーーーーーーッッ!!??

 
騒がしい奴だな。
 我が花園を踏み荒らした挙句、妖でも見たかのような反応しおって」

サンサ
妖じゃん!!! だって……」

サンサ
「『フユワスレ』だろ……!?」

 
「ほう……

 その反応は、観光客か?
 この我をそのように呼ぶとは。

 島民であれば皆、我をこう呼ぶ。
 『ハルバシラ様』とな」

サンサ
「えっ……!?
 ってことは、あんたが……?

 良かった! オレ、あんたを探しにこの島に来たんだよ!」

サンサ
旭丹王キョクタンオウ……!

旭丹王
「…………

 ふむ」

旭丹王
「何やら事情がありそうだな。
 良かろう……」

旭丹王
「名乗れ小童。
 聞いてやる」

サンサ
「ありがとう!
 オレは山茶サンサ

 妖斬り・・・だ!

←妖
笑止

サンサ
イギャーーーーーーーーッ!!!
 違う違うごめんなさい違います斬りにきたんじゃない!」

サンサ
「ただ人を探してるだけなんだ!
 白夜……オレの友達の、フユワスレの行方を!」

旭丹王
「フユワスレの?」

サンサ
「白夜は去年、オレん家の庭で生まれたばかりのフユワスレなんだ。
 でも、オレが怒らせたせいで……出ていっちまった。

 フユワスレのいる村に冬はこない。
 秋が終われば春を迎えるはずなのに、
 オレの村はすっっっっげーーーー……寒いままだ。
 だから、飛んで遠くにいっちまったんじゃないかって……

 フユワスレのことなら、春柱島の王にきくのが一番だって、
 じいちゃんに言われて来たんだよ」

旭丹王
「怒らせた……か。
 お前、よく燃やされなかったな」

サンサ
「それは……オレが……妖斬りだから、逃げてるのかも。
 怒らせたってより……怖がらせちまったっていうのかな……」

サンサ
「でも、違うんだよ。
 オレはあいつに謝って、話がしたいだけだ。
 斬るつもりなんて微塵もない!」

旭丹王
「そうか。
 だが果たして、生まれたばかりのフユワスレがそれを信じられようか。

 ……ふむ。では、こうするのはどうだ?」

旭丹王
「我が仲介人として立ち会ってやる。
 お前が少しでも妙な動きを見せた瞬間、消し炭にしてやろう

サンサ
何でェ!?

旭丹王
「お前が武器を手放し、対話以外の一切を許さぬ場を作れば、
 そやつも少しは安心できるのではないか?
 どれほど優秀な妖斬りであっても、我を相手取ってはただでは済まぬ。
 この春柱島の島民やフユワスレたち全員を敵にまわすに等しいからな」

サンサ
「こわ…………オレ死ぬ? 死ぬかも?」

旭丹王
「嫌ならば尻尾を巻いて帰るのだな小童」

サンサ
「…………」

サンサ
わかった!
 だったら協力してくれ、旭丹王!
 王の立ち合いのもと……上等だ!
 オレは余裕だなんてことは全然ないぜ!

旭丹王
「震えすぎだろ」

サンサ
「というかそれ以前にまずどこに行っちゃったかなんだけどぉ……!」

旭丹王
「ああ、そのことだが……
 お前の村はずっと寒いままだそうだな。

 フユワスレは蕾のまま飛行することはできぬし、
 開花したなら春を呼ばねば力を抑えきれなくなる。
 我ほどになれば機を見計らうこともできるが、
 生まれたばかりとなれば耐え忍ぶのは難しかろう」

サンサ
「ど、どゆこと?」

旭丹王
「白夜はまだお前の村にいるかもしれぬということだ。
 それも『ただの牡丹』に戻った状態で

サンサ
うえっ!?

旭丹王
「フユワスレは人の子への愛憎ゆえに顕現する妖。
 人の子との関わりを拒絶したならば、妖としての終わりが訪れる」

サンサ
「そ、そ、それは……死んじゃうってこと!?」

旭丹王
「妖としてはな。牡丹としては生きているから、生命の断絶とはまた違うが。
 一度村に戻り、近郊を探してみるが良い。
 もしも牡丹の蕾が見つかれば、それが奴の意思ということよ」

サンサ
「…………ま……まじかよ。
 オレの村、牡丹いっぱい植ってるからぜってえ区別つかないんだけど……

旭丹王
なぜそんなたくさん植えた!!

サンサ
「なぜって!
 ずっとフユワスレが来てくれるのを待ち望んでたんだ〜!
 村ぐるみで牡丹を育ててんだよ。
 オレの村、死ぬほど寒いし枯れっ枯れだからさ!」

旭丹王
「もとから迎え入れる気満々だったのか……?
 しかも、妖斬りのいる村で?」

サンサ
「妖斬りはまじで関係ないんだよ。
 確かに……フユワスレとの戦い方も知識としては教えてもらったけどさ……
 むしろそれは、戦わないための知識でもある。だって友達だぜ!」

旭丹王
「………………………

 一応、呼びかけるという手も無くはない……」

サンサ
「呼びかける?」

旭丹王
「我がお前の村にて春を呼び、
 白夜をもう一度フユワスレとして目覚めさせる。
 一度フユワスレとなったことのある牡丹だ。我の声にも答えやすかろう。
 無論、拒否されればそれまで。深追いはせぬ。

 試すならば次に春を呼ぶ時……今年の年の末だ。
 そしてまずは、お前を遣わしたという祖父や
 村の長に引き合わせてもらわねばならぬ。
 小童ひとりの都合のみで、春を呼ぶことなどできぬからな」

サンサ
「は、はえ……?
 何だかおおごとになってきちゃったぞ……」

旭丹王
「フユワスレを迎え入れるとは、それほどの事だと心得よ小童。
 この先の何十年、何百年と、
 村は冬を思い出すことがなくなるのだからな」

サンサ
「わ、わかった。じいちゃんと村長には相談しておくよ」

旭丹王
「それともう一つ、
 我は春柱島とお前の村、二ヶ所に春を呼ばねばならなくなる。
 力を蓄えるため、この一年間は人の子の集まる地を巡ることにしよう。
 祭りや貿易、何らかの催し、とにかく賑やかなところが良い。
 情報を集めろ」

サンサ
「春柱島じゃだめなのか? こんなに賑やかなのに」

旭丹王
「ここはよく知る花園だからな。
 より広く豊かさを求めるには、新たな風が必要ということだ。
 わかったらキリキリ働け、小童。すぐに取り掛れよ。

 …………」

旭丹王
「……『すぐ』とは、一週間なら待ってやるという意味だ。
 遅刻したら許さぬ」

サンサ
「一週間!? 往復してたら全然余裕ねーじゃん!
 うおお急げ急げ〜!」





旭丹王
「………………………

 行ったか。
 あの小童……言葉に偽りのようなものは無さそうだったが……」

旭丹王
きな臭い村だな。

 それに、持っていた
 虫取り網のようなもの……あれは……

 フユワスレを呼ぶのは、本当に寒さが厳しいからか?
 今の時代、ただ寒さを凌ぐだけならば、
 炎熱の術などを学ぶ方が余程手っ取り早いはずだが」

旭丹王
「もし、不当に害するつもりならば……」

旭丹王
「我が手で焦土にしてやろう」





その後……

サンサ
帰り道教えてもらえば良かったぁ……


花畑で遭難して遅刻した。








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