Eno.435 トリサ  Ⅶ:『努力』について - ひかりの森

―― 拠点に戻らない

『試し行為』をやろうと思おうなんて。
説明を聞いたときにはどうしてやるのか分からなかった。だけど、今は分かったかもしれない。
自分の価値は他人が決める。自分の価値を確かめたかった。誰かが探しに来てくれるのか、それとも私は要らない子なのか。
行動するまでは早かった。何も残さず、いなくなれたと思っている。
きっと発端は、前の、あの言葉。



けれど。私が見つけてほしい人は誰なのだろう。
ペテン? ロック? レーリ? チュチュ? それとも ―― 私が一生を誓った、神様に?





「―― 君は間違ってるぞ、トリサ」

……マインラートと出会った。以前、河原で一度話した人だ。
テラートを悪く言った、けれど、その原因を作ったのは私だった。
テラートは自身の教えを『良く思う人は少ない』と言っていた。このように、間違いだと声を上げる者もいる。そのことを彼女は特に気にしてはいない。自分の信仰の芯であり、強制するつもりはないと言っている。
私が、否、私たちが自らの意志で彼女に従っているだけだ。信者を増やすためではなく、私たちが彼女に仕えたいから仕えている。彼女はその全てに自由を与え、赦してくれる。

私の行いにより赤の他人に悪く言わせ、保護者責任も取れない者だと思わせてしまう。
そんなこと、したくない。
私のせいで、テラートが悪く思われるなど、耐えられない。

恩を返すために。役に立つために。
だけど、それだけじゃダメだった。
マインラート、ありがとう。大事なことに気付けずにいた。

自分の価値が、他人の価値を決める。その逆も然り。
だから。

私がしっかりとしなければ、テラートの価値を下げてしまうのだ。





今日は、拠点に戻らなくなって3回目の夜。
周囲には誰もいない。人の声が聞こえない。

寂しい。独りだ。誰の声も聞こえない夜は、どうしても不安になる。
嫌だ。怖い。誰か助けて。独りは嫌だ。


そんな泣き言を、全部私の中に押し込む。
人が、人の価値を作る。自分が自分の価値を作るのではなく、他者が自分の価値を作る。勿論その逆も同じ。
私の行動でテラートの価値が決まる。悪く思う人が出てくる。それは、耐えられない。


堪える。私が、テラートの価値を下げないように。
私が強くなれば。私が役に立てる人になれば。私がいい子になれば。


私は、テラートの駒なのだから。



―― 忠誠心が彼を導き、仲間たちと共に困難を乗り越えた





<関わった人たち>
■シュカ
悪夢を見たときに、心配して声をかけてくれた。それから話を聞いてくれて、お互いに自分たちの話を少しした。
シュカは楽観的であまり後先を考えない人だった。私が今まで関わってきたことがない人だったからなかなか慣れない。けれど、悪い人じゃないんだろうな、とは思った。
私のことを『友達』だと言ってくれた、けど。
まだこの人が『大丈夫』だとは思えなくて、私自身がその手を伸ばしきれなくて。

それでも嬉しかったのは本当だよ。


■マサカマ
拠点から離れた旅先で出会った人。唐突な謎かけに、『逆といえばどっちだと思う?』という質問をされた。東から来ていたから、西の果てにたどり着けばその逆に、となると東になるのだが、そう答えるのは面白くないと思った。
拠点から出て、ここを探索している。この場には明確なゴールはない。探し物こそあるが、どこへたどり着くべきかという答えはない。けれど、必ず戻る場所がある。
そうして私は『拠点の方向』だと答えた。
……私がそこに戻るのは、いつになるだろう。空藻が3つ集まった今も、戻る気にはなれなかった。

楽しかったから、また会いたい。





ティカ
「そもそも魔力を持っていない人間なんですよねぇ……
 となると、魔法を扱うための魔力を扱えるようになるところからですねぇ」

トリサ
「…………魔力を、扱う」

ティカ
「はい。人は魔法石から魔力を引き出し、魔法を扱います。
 まずは魔力を感知できるようになりましょうねぇ~」

トリサ
「……どうやって?」

ティカ
どうやって

生まれながら魔力持ち
「(どう、やって……?)」

カンニング中
「えーと(本をパラパラ)」

カンニング終了
「……意識を集中させて、魔力という神秘に触れる。
 そこに確かにある力に触れて、身体に馴染ませていく。
 さすれば身体が魔力と共鳴し、不可視の力に反応できるようになるのだと」

ティカ
「……………………」

なんもわからん
・・・・・・???

トリサ
「……もしかして、ティカはすぐに魔法を使えるようになったのか」

ティカ
「すぐというか……」

ティカ
生まれつき……?

トリサ
生まれつき!?

ティカ
「これは私の例が大変悪いですね! テラートを呼びましょう!
 ほら! 法力だって似たようなものですし!」

ティカ
「テラート! あなたはどうやって法力を扱えるようになりました!?」

テラート
「え? どうやって……?」

テラート
…………言われた通りに祈ったら……?

ティカ
そうだこの人!
 神父様も「法力の習得速度がおかしかった」って言ってました!!
 なんっっっの参考にもならない!!

トリサ
「……そんな、じゃあ……本来はどっちも、すぐに使えて当然なの……?」

ティカ
「いやちがっ……違いますよね、違うと思うんですけど……」

テラート
「神父様は簡単な法力にも2年かかったって言ってたわねぇ」

トリサ
「……テラートは?」

テラート
「え?」

テラート
「……お手本見せてもらってやってみたらできちゃったから……」

助けて
あぁ~~~~~~~
 今この瞬間だけ人の心をへし折る天災と化してしまっている~~~!!




テラート
「ところでティカ」

テラート
「あなたの力、霊力と魔力なのね」

テラート
神の道を志す者は、霊力による法力だけを行使するのが基本なのに


ティカ
「…………、」

ティカ
…………それは


テラート
凄いわ! どっちも使えるなんて!

ティカ
えっ

テラート
「やっぱりティカはただの旅のシスターじゃなかったのね!
 こんなにすごい人と出会えるなんて!」

ティカ
「…………お、お褒めいただき……光栄です……」




~1か月後~



ティカ
「では今日はひとまずここまで~。
 この後礼拝がございますのでぇ、少しお手伝いをしてください~
 表には出なくていいお仕事を頼みますから~」

トリサ
「は、はい! えっと、今日もその、ありがとう……」

ティカ
「は~い どういたしましてぇ~」




ティカ
「…………」

ティカ
「…………」

終わりじゃ
要領が、悪すぎる――!!

テラート
「でしょうねぇ~」

ティカ
「いや、分かってます、分かっています!
 境遇を考えても本当に仕方がないことは分かっています!」

テラート
「教え甲斐があって楽しいわよね!」

ティカ
あなたが担当している文字の読み書きも
 相当だってお気づきではない!?




テラート
「でも」

テラート
「あの子、凄く頑張り屋さんよ。きっとあの子の天性の才能はそこなのね」

ティカ
「……そこは、まあ、否定しませんが。
 実際魔法も熱心に勉強しておられますし」

テラート
「待機している間も自分なりに頑張ろうとしていて。
 凄いわよね、いっぱい応援したくなっちゃうわ」

ティカ
「……それも、あの子がそうさせていると?」

テラート
「えぇ、勿論」

テラート
「あの子が私たちを突き動かしたから、
 私たちはこうしてあの子に知識を与えているの」









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