Eno.79 『魔女見習い』のリキ  手書きの手紙:『秋空』の魔女宛 - あざやかな花園

庭園の調査をして暫くの頃、手紙が一通届いた。
宛先はバッカレー・フュートル、差出人はリキの前親方からであった。


親方
「いきなり手紙をよこして悪かったな。
 お前さんとは顔を合わせたことはなかっただろうが」

親方
「改めて、自己紹介といこう。
 と言っても、魔女さんに名乗れるほどの大した名はねぇ」

親方
「すまんが親方とでも呼んでくれ。
 マダム・レイジアのとこの『秋空』の魔女さんよ」


親方

リキがバッカレーの元へ弟子入りする前の工房の親方。
小柄ながらどっしりとした体躯の職人然とした人物。魔法は一切使えない"一般人"

魔法を操るものと魔法を使えないもの、ふたつは混在しているが
二者間にあまり接点はなく、繋がりを持つことも稀である。
少なくともこの親方の持つ魔女へのコネはマダム・レイジアくらいのものだ。


親方
「リキは元気でやってるか?
 お師匠のお前さんとはうまくやっていけてるかい?」

親方
「リキはなぁ…ちっと難儀なところもある。
 俺のとこに来るまでも色々あったんだろう」


親方
「俺ぁリキをお前さんのとこに送ったが、それで良かったと思ってる」

親方
「なにせ俺ぁ魔法が使えねぇ!
 工房だってただの機械工房だ!」

親方
「そんな一般人のとこにいるよりか、
 お前さんのような魔女の下についたほうがあいつの夢も叶うってもんさ」


親方
「ただな、心配事がないわけでもねぇ。
 マダムに何かあったかい?
 手紙を届けるために手を借りようとしたんだが、
 どうもゴタついてるようだったんでな……」

親方
「まぁ、俺に話せることじゃねぇのも承知だ。返事はいらねぇ。
 そんな中でちと気になることがあってな」

親方
「リキのことを聞きに来た御仁がいたのさ、つい先日だ。
 もうここにゃいねぇっつったら所在を聞いてきたんだが…」

親方
「安心しな教えちゃいねぇ。
 実際お前さんらがどこにいるか知らねぇしな はっはっは!」


親方
「おっと…前置きが長くなっちまっていけねぇな。
 尋ねてきた御仁は身なりの良い紳士だったよ。
 杖を持って…ありゃ雰囲気は魔女だな」

親方
「まぁこりゃ俺の勘だ!」

親方
「だが気をつけてくれ。俺らは魔女には対抗できねぇ、
 リキを渡したのはそういう意味でもあるんだ」

親方
「こいつも俺の勘だがな! 外れちまったら笑って喜べ!」



手紙はそこで終わっている。
親方は、マダム・レイジアやバッカレーらの身に起こったことは知らないだろう。
結社の方でもそれには最新の注意が払われているはずだ。

末端の者がこの手紙を転送してきたのは12月の初めも終ろうという時だった。








<< 戻る