Eno.240 シルワクス  夢の続きを見たくて(再) - せせらぎの河原

 ご先祖様は今も生きる大昔の英雄だという。その血を継いだ由緒正しき貴族家の次男が僕だ。
 家族はとても穏やかで、家督を継ぐ長男の他は、自由だ。自分が望む将来を目指して、努力することができる良い家だ。
 そんな環境で生きる中、僕は戦士を志した。
 父はとても強い戦士で、みんなを守れる力がある。そんな父に憧れて、幼い頃から剣を振り続けた。
 目指した道はよく踏み固められていて、目標もはっきりと見えている。
 優れた身体、優れた環境。何一つ困ることはなかった。
 家の中で、ずっと己を鍛えていた。それだけで毎日が楽しかった。

 ――気づけば、剣を握ってから25年。世界は、平和だった。

 鍛え上げた技能は、競技騎士以外に使われることはなく。
 父の世代にはまだ残っていた筈の冒険譚は、すべて過去のもの。法整備は順調に進み、戦闘は娯楽の中でしか発生しない。
 外敵はおらず、多くの種族、多くの文明が共存する世界となった。
 たったの25年で、世界は大きく変わった。
 父は引退し、競技選手となった。兄は家を継ぎ、今では立派な当主様だ。
 姉は錬金術師としての技能を活かして、薬師として働いている。妹は整備士、弟は画家を志して勉強中。
 
 僕は?
 僕は何をしたらいい?

 目指していた冒険者という職業はなくなった。
 趣味のギターを手に取って、音楽の道に進もうかと悩んでいたけど。これで生活しようとも思えなかった。
 残された道は、僅かばかり。そのどれもが避けてきた選択肢。
 ちょうどその時だ。当主が代替わりした報せを受けて、先祖様が家を訪れた。
 話を聞いてみると、どうやらいろんな世界を旅していたらしい。つい最近は宇宙戦艦を作った後、ギターを学んで帰ってきたのだとか。
 わけがわからない。けど、わくわくした。
 僕も、あの人のように他の世界に旅をしてみたくなった。きっとそこには、僕の力を必要としてくれる誰かがいるはずだ。
 だから、ご先祖様にひとつお願いごとをしたんだ。

 そうして、今。僕は全く知らない世界の大地に、二本の足で立っている。
 ――幼き頃に憧れた夢を、今も見続けるために。








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