Eno.76 ナハト・フルーレ  かわってしまった話 - たそがれの頂

  少年は、夢を見ていました。


 みんな笑っていて。幸せに暮らせるような夢を。

 

  少年は、流れる星に願いました。

 
 種族も地位も関係ない、平等な世界を。


 
  少年は、尽くしました。

 
 人の為、世の為、正義の為。



  少年は、信じていました。


 家族も、他人も。平等に。



  
 時が経ちました。




 
  青年は、真実を知りました。


 世界は、残酷で。嘘つきでした。



 喪われる音が聞こえた気がしました。f2[2]






  青年は、造花を飾りました。


 生花は、とうの昔に散ってしまいました。f2[3]



  青年は、償いを求めました。


 もう、昔に戻る事なんて出来ないのに。



  青年は、救いを捨てました。


 そんなもの、なかったのです。




  青年は、自分の口を塞ぎました。


 傷つけてしまいました。人を救う事なんて出来なかったのです。





   桜は、綺麗に見えているでしょうか。


 
   世界は、何も変わらず回っています。




 何処かで花が散ろうとも。

 別の世界で一つの純粋傷つけてしまったあの子が何かを知ろうとも。


 悪意が、こちらに静かに手を伸ばしていても。




   世界は、何も変わらないのです。







  本当にかわったのは、あの日の少年だけでした。




 今日も、夜に桜は舞うのでしょう。


  幻と共に、舞い続けるのでしょう。


  魂の安息を、願いながら。

     造花が焼け落ちてしまうその日まで。
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