Eno.471 アニア・ナムティア  乱れた手記 - Ⅱ - はじまりの場所




ほんの些紬な事故が発端で、 母は二度と家に帰ることはなくなって
それから父は、 体の細い私を一人で育て上げることになった。





「―――」


冒険者としての不安定な稼ぎの中、私は父が持っていた教会との関わりを通じて
基本的な教育を受ける傍ら、家で父の手伝いをするのが専らの暮らし。
疲れた様子の父を出迎え、できる限りで仕事の手助けをする毎日。

働くばかりで友達も少なかった私は、 外の世界への憧れも、他人に対する好奇心も
単なる"未知への恐怖"として一緒くたになって、人並み以上に子供らしい私の心は、
その恐怖への理解と、それを理解する為の努力に欠いてばかりで。



「―――」


ずっと、臆病で我儘な子供だった。 
感情の発露が苦手で、いつも"ほつれ"を抱えている子供だった。
そのほつれを、父は終ぞ治してくれることは無かった。

父が家を空ける時、いつも決まって行き付けの宿の主人に私のことを任せて行ったけれど
身も心も不安定だった私は、 事ある度に色々な問題を起こすような子供だったから。
その時から私はもう、色々な人に嫌われてしまっていたんだろうと思う。








初めて両親以外の誰かを傷付けたのは、8歳の夏の頃。
ほんの些細なことからの癇癪、 幼い心が引き起こした情緒の乱れ。

私の人生から生じた、 黒い煤のひとつ。











沢山の"不幸"を覚えている。
これまでの人生で与えられた、 色々な神さまの善意と悪意について。

そこに往き付く手前のことは、さっぱり忘れ掛けている。
何も意味の無いことで、何も覚えていたくないことで
今の私にとって、何の価値も無いものだから。

 








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