Eno.740 【背中を押す者】  懺悔Ⅰ - ひかりの森

 
「多くを望んだわけじゃない」
「争いばかりの毎日を終わらせたかった。
 あなたと、子供たちと、平和に暮らしたかった。
 戦いから帰ったらいつものようにおかえりを言ってほしかった」

 
「贅沢ではあるけど、そこまで強欲な願いじゃないだろ?」
「でも叶わなかった」

 
「俺の人生を、命を、あなた以外の全部を懸けたのに、
 唯一失いたくなかったあなたを、守ってやった奴らに奪われた」


 
「許せるわけがない」


 
「活躍すれば妬まれるのはわかっていた。
 だから一瞬でも周りに気を許したことはなかった。
 戦友であっても、決して」

 
「でも狙われたのは俺自身じゃなかった」

 
「まさか俺を活躍させないために
 あなたを殺すなんて発想に至るなんて思わなかった」

 
「本気で思わなかったんだ」
「ひとりひとり殺す前に話を聞いた今でも理解できない。
 どうしてあなたを殺すことで心を折れると思ったのか、わからないんだ」

 
「あなただけが大切な俺があなたを失えば止まらなくなるって、
 何故誰も思い至らなかったんだろう」



 
「『僕にとって君は、この世界で最も輝いて見えるお星さまだよ』」

 
「あなたはそう言ってくれた」
「小さくて弱くて汚くて惨めだった俺を、あなたが見つけてくれた」

 
「あなただけが認めてくれた」

 
「あなたは俺を温かく照らして導いてくれる太陽だ」
「太陽を失った世界は目の前も見えないくらい暗くて、
 魂まで凍りついてしまいそうなくらい冷たい」

 
「だから、全部死ぬべきだと思ったんだ」



 
「ごめんなさい」

 
「止まれなかったんだ」
「あなたがいない世界で生きるモノを許せなかった」

 
「あなたが慈しんでいた子供たちも、
 あなたが大切にしなさいと言った戦友も、
 あなたを殺した奴らも、敵の残党も、
 全部全部、同じモノとしか思えなくて」

 
「殺してしまった」

 
「ごめんなさい」

 
「あなたが悲しむとわかってるのに
 どうしても間違ったことをしたと思えない」



 
「――神父様、俺は」


 
「俺は、どうすればよかったんですか」









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