Eno.132 レイン  四翼 - ひみつの庭

**いっそ目の前の父が沼から起き上がった怪人であってくれればよかった**

レイン
「リトルクロウホーム。老人ホーム施設みたいな名前だが、実態はカルト宗教詐欺団体だ。預言者マルクスというどうみたって日本人の中年男性をトップに据えた、世界が終わると喧伝してやまない気の違った連中だった」



**父親が急に宇宙人になったのは、俺が中学生になった12の夏**
**祖父が亡くなって半月もしない、青い空の日**


レイン
「情けのない話だよな。父さんはじいちゃんが死ぬまで待ってたんだ。自分の主張が通せないと思ってたんだろう。あるいは怖かったのかもしれない。晩年のじいちゃんはもう病床から動けなくて枯れ枝みたいだったのに」



**この世界は大いなる神鳥───彼の宗教では神の名前は言ってはならない存在だった───に守られていて**
**俺達知恵のある生き物はその事に甘えて卵から孵らない雛なんだと**
**だから自ら殻を割り、割った者は他の卵が割れる手伝いをしなきゃいけないんだって**
**意味わからないだろ?俺もわからない**
**いわゆる霊感的スピリチュアルな話だった**
**科学の信徒である俺たちは、狂ったように家の中を宗教で染めようとする父に困惑した**
**卵を食べてはいけない。男子と女子の役割の区切りをつける。毎日1時間は祈りを捧げ、財産を喜捨し、権威に縋ってはならない**
**祖父がいなくなり、洋食店を母が継ぐ事も許されなかった**
**抵抗した母と祖母があっという間に痣まみれになるのに対し、父は俺にやたら優しく、俺の手から料理を遠ざけた**
**父の宗教では男子は外に出て働くものであり、食事は女が作るものと決まっていたらしい**
**それ以外は男の手が穢れるんだと**


レイン
「俺は逆らわなかった。意味は分からなかったが、反発したら母や祖母が殴られると思った」

レイン
「でもたぶんそれは母や祖母への裏切りだった」


**結局暴力と宗教に耐えかねて、母は祖母が父の暴力で骨折した事をきっかけに離婚を申し出た**
**驚くほどすんなりとそれは通った**
**父も母に愛想がつきていたらしい**
**……**
**俺の親権は**
**母ではなく父のものになった**
**理由は知らない**
**14の頃の話だ**








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