Eno.663 ジオグリス=エーレンベルク  砂を食むような感覚がする - せせらぎの河原


「良かったと、思ってはいるんです」


「ただ助かって、残されるのはひどく辛いことですし
 差し伸べた手を握り返せるのも、その方がずっとよくて」


醜い。


「やり直しなんか効かないと思ってました。」



「どうしたら良かったのかわかってて、
 それでも時間を巻き戻すなんかできるわけなくて」


「過ぎたことを引きずり続けるだけ、どうしようも」


醜い。


「出来るんですね。」




「やり直せる人がいるんですね。」




「試行錯誤して、何度も繰り返すことが出来たひとが
 ここにはいたんですよね」


醜い。



魔法・・は魔術とは違う。
天性の才。解明されぬ奇跡の一端。
神に愛されたともされる、贈り物のこと。



「神様に愛されてるってのはさ、」


「ああいった奇跡が起こせる奴のことを
 言うんじゃねえのか」



「あんな風に、人のために、だれかのために、」


「救い、救われることが、あんな、ふうに、」


醜い。


「わかってんだよ」



「ただの無い物ねだり、嫉妬、
 ああ、くそ、みっともねえ」


仮に力があったとて、
ほんとうの幸いのためにこの身をくべる覚悟なんてひとつもないくせに。




「強く」



ならなければ。

飢えている。



「……」


「飯、食わないとな……」









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