Eno.67 チーバイシーア  渡り - はじまりの場所

「なにそれ」

ふと、通りすがりの同僚が机の向かいから声をかけてきた。
「あーこれ?羊の枷」
無骨な作りの首枷を机に置く。じゃら、と鎖の音。
「なんかよお、渡りの後に外れる時があんだってよ。それの原因解明中」
異世界渡航────渡りをすると、枷が外れる事案があった。
稀に起こるせいで原因もわからず、自分含め、牧羊犬たちは調査しているわけだが。
その事案から羊が逃げ出すこともあった。おおよそは捕まえられるか、処分するか。
「術式無理やりどうこうした感じじゃねんだよな〜これ。見てみ。こないだチーバイシーアが持ってきた」
まあ、戻ってくるのだっている。
「ふーん」
「興味なさそうだな」
「自分の仕事じゃないし」
滑らせた枷に、奴は一瞥くれて座りやがる。
首枷はついぞまともに見られることはなく、机に転がった。
取んねえのかよ、とツッコミは入れたが、別に取ろうが取らまいが気にしてはいない。
「枷ないとどんな感じなの?まだ管轄にいたことなくてさぁ」
「あーそうだな、枷ねえと怖えわ。いや、あいつが1番怖えだけかも」
記憶にあるのは赤い瞳。鞭を打ってもただこちらを見ているだけ。
その威圧感に、一瞬、どちらが上かもわからなくなった。
「大変だねえ、処分すれば?」
「できるわけね〜だろ〜がよ。上のお気に入りだよあいつは。なんで俺の管轄にメスガキ呼ぶバケモンいるん……」
そこまで言って、はっと口を押さえる。
「あーいや、今の聞かなかったことにして」
「別に言わないよ」

羊に聞かれていたらと思うと、ゾッとした。
ここにいたのなら、いらん怒りを買っていたことだろう。








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