Eno.757 天秤の天使サシチガエル  いつか昔の話。 - あざやかな花園

古の時代。二つの国が戦い続けていた。
両国の姫が天に願った「早く戦いを終わらせて欲しい」と

その願いを聞き、神は天使を遣わした。天秤を持った天使だ。

願いは聞き入れられ、戦いはすぐに終わった。
結果はどちらも滅んだ。
そう、どちらも。


姫の願い通り戦いは終わった。
均等に、ならすように。

右が勢いづけばそちらを
左が勢いづけばそちらを

天使は均等に、まるで人数を合わせるかのように殺戮を繰り返した。



「人の子よ」



「矛を収めれば戦いは終わる」



「ここで尽きれば先はなくなる」



「人の子よ、愚かでないと言うのならば膝をつけ」



「聡明であるというのならば頭を垂れよ」



天使は言った。だけどもだけども人が聞かなかった。
なので仕方ない、これは主が与えたお役目である。
姫は勝利を願わなかったから天は天秤を遣わした。
この戦いに勝敗はあってはならない。


「天使様、どうして?」
「どっちの味方なの?」
「たすけて、たすけてください…」


天秤に心はない。
この天使にそのようなものは不要である。
天秤は公平に物事を押し図らねばならない。
心や情というものは、邪魔なだけだ。



「汝らの願いは天に聞き届けられた。」



「喜ぶといい」



「戦いは終わった」



人々は口にした、涙を流しながら、怒りながら、石を投げて。


『こんなの違う』
『お父さんを返してよ!』

『悪魔』
『悪魔だ、悪魔!』
『あいつは悪魔だ!!!』



「………」



「人の子よ
 今一度言おう。
 願いは叶えられた。」



喜べ





それが願いだったろうに。








<< 戻る