Eno.322 恋路 六六  【記録】双魚の記憶② - ひかりの森

『死を厭うなら、この空を去れ』


ある日、空に自分たち以外の同族の匂いを感じた私たちは、
そこで、ある妖怪道士に出会った。

その道士は驚いたような、悲しいような、
どちらとも付かない顔付きをした後に、そう冷たく言い放った。


そんな横暴、拒否するに決まっている。
境のない空を細切れにして、
支配するのは馬鹿な事だと思った。


……次の瞬間、私は私の身体が地面に墜落しているのを発見した。
それと同時に、身体の鱗が一枚一枚、
"丁寧に"引き剥がされるような感覚を伴い、順番に落ちていく。


──34、35、36。


あぁ、これで全部だと安心した時には、
いつの間には新しい鱗が身体を覆っていた。


1、2、3、4──


絶え間ない痛みと、私の意志に逆らう鱗たち。
それが道士の見せる夢なのだと気付く頃には、
"現実の鱗たち"もまた、私の身体から離れて落ちてしまった。


頭をもたげる事も出来ない中、
見慣れない姿をした端午が駆け寄ってくる。

当の道士は、そんな私に少し視線をくれた切り、
赤い髪を靡かせてどこかへ消えてしまった。


『これからは人に紛れて暮らせ』


──後から聞いた話によると、端午は私が幻術に苦しんでいる間、
この道士から人に化ける術を叩き込まれていたらしい。

私は不承不承ながらにそれを端午から教えてもらうと、
愛しい故郷の空の元を離れ、遠方へと旅立った。








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