Eno.113 メリジェ  10:母の昔話 - まぼろしの森林

まず、勇者というヒューマンのことを説明しなければならないわね。

普通、全ての生き物には寿命があって、一度きりの生を終えたらおしまい。
だけれど、それに当てはまらない者がふたりだけいるの。
永遠の命を持つ魔王と、記憶を継承し生まれ変わる勇者。
ふたりは、それぞれ夜の眷属と昼の眷属の、事実上の代表というところね。

魔王が世界を闇に覆っていた頃、勇者は昼を取り戻すため、何度も何度もその城に挑んでいたの。
その度に負けて、時には死んで、生まれ変わっても何度もね。
そして、当時の勇者が1000年前に挑んだ時、あたしは族長様に命じられて、ついていったの。



魔王城までの道のりは、長く苦しかったわ。
ドワーフの戦士、ヒューマンの癒し手、エルフの弓使いのあたし。
途中で、たくさんの闇の眷属と戦ったわ。
ゴブリンともオークとも、トロールやヴァンパイア、ドラゴンとも。
ここが森になる前、途中で通ったわ。町長の肩の傷は、あたしの矢の一撃よ。(今は和解してるわよ)
勇者は3人の仲間と共に、最終的には魔王のところにたどり着いた。

勇者は、満身創痍のあたしたちを置いて扉を開けて、魔王のいる部屋にひとりで入っていった。
その後のことは、ふたりしか知らない。
勇者は戻ってこなかったの。
でもその100日後、世界に光が戻ってきたのよ。
勇者が書いた手紙と一緒に。

なんて書いてあったと思う?

『この度魔王と協約を結び、
 昼と夜は交互に訪れることになった。
 あと実はユグネラのことが好き。
 ちょっと今世は難しそうだけど、
 来世以降でお付き合いしませんか』

ブチ切れよね。破り捨てたわよ。
ドワーフもドン引きしてたし、勇者のことがコッソリ好きだった癒し手の子は泣いてた。
だいたい最初から寿命しか見てないクソ野郎だったわ。
エルフなら自分の孤独な転生人生に付き合ってくれるかもみたいな魂胆が見えて透けてるのよ。
メリジェに教えたくなかった1番の理由は、
こんなクソ野郎が世界を救ったことが許せないからよ。

でも、毎日日が昇るようになったわ。
植物がよく育つようになって、夜の眷属たちも農耕や酪農を覚えて、
人を襲わなくても暮らしていけるようになった。
そして、父さんみたいに、優しいオークも育って、あたしは恋をしたわ。
悔しいけど、あのクソ野郎がいなけりゃメリジェも生まれてなかったわね。

メリジェは知っているかしら。
今は場所によって昼と夜の長さが違うのよ。
魔王城の近くでは、夜が長くて。
ヒューマンの国では昼が長いわ。
そしてこの“昼と夜が平等な森”では、その通り同じ長さ。
だから、お祭りはここでする決まりだし、
100年前のお祭りで、あたしは父さんにプロポーズしたの。

これが、あたしの知っていることよ。
勇者と魔王が、100日で何の約束をしたのかは、残念だけど誰も知らないわ。
でも世界は前より平和になった、それは事実よ。

今度のお祭り、勇者が来るらしいけど。
メリジェには近づけさせないから。
もっと詳しく聞きたかったら、町長にもお手紙を送ってみたら。
あのドラゴン、魔王とはメル友らしいわよ。

エルフのユグネラより








<< 戻る