Eno.355 決闘の天使デスデュエル 記録 - たそがれの頂
「──連れていくな、だと?」
「人の子。それはこの者の命を踏みにじるのと同義。
ここに捨て置き、肉も魂も腐り果てるのを待つつもりか」
「オレが役割を放棄することは万に一つもないが、
仮にこの者を置いていったとしても死は覆らんぞ」
「
────『神は正しい者に味方する』。
神判には、決闘裁判と呼ばれるものが存在する。
一羽の天使が授かった役目は、人間が定義したこの神判を由来とした。
決闘裁判というものは、どちらかが死をもって罪を告白する。
両者が揃って『正しい者』であることは絶対にありえない。
一羽の天使には罪を見通す眼もなければ、善悪を決定する権限もない。
その役目は神判を見届け、『正しくない者』に救済の手を差し伸べることだった。
「やだ、やだ、連れていかないで」
敗者への慈悲。
「お願いします、お父さんを赦してください」
顧みられることのない魂への弔い。
「連れていかないでください、どうか」
主より分け与えられた、たった一粒の『慈愛』の心。
「地獄にだけは。」
────一羽の天使は、これを本質とする。
現在において。
多くの場合、人の死が伴う儀式は古き悪しき風習として厭われる。
神に捧げるものであった決闘裁判もまた、その神性を失った。
役目を失った一羽の天使は、今日も今日とて自由の身だ。
「徒花どもが今日もオレを
「『お前は既に要らぬ者』」
「ああ、その通り。いい時代になったものだな」
もはや己が冠する言葉に縋り付くことでしか、その神性を保てない。