Eno.113 メリジェ  9:母との手紙 - いろどりの山道

お母さんへ

連絡遅くなってごめんねえ。
あたしは元気!
毎日いっぱい探検したり、お花のお世話をしたりしてるよお。
とっても楽しいよお!

それでねえ、今日はお母さんに聞きたいことがあってえ。
森のお祭り……昼と夜が同じ長さになったお祝いのお祭り。
それについて聞きたいのお。
1000年前、どんな冒険をしたのかなあって。

お手紙なら、教えてくれるかもと思って!
メリジェももう21歳だよお。お母さん的には全然大人じゃないかもだけど……。
お祭りの由来を知ったらもっと楽しめると思うよお。
よかったら教えてねえ!

メリジェより!





「どうしたもんかしら」
娘からの手紙を読んで、ユグネラはため息をつく。
「そろそろ、教えてやってもいいんじゃないか」
「そりゃあなたからすればあの子は大人に近いかもだけど。
 あたしにとっては、まだ赤ちゃんみたいなものよ」

2000年を生きるユグネラにとって、メリジェははじめての子だった。
新たな生命を授かり、育てたこの20年という年月は、
彼女にとって最も瑞々しく大切な一瞬だった。

「……でも、いつまでも黙ってはいられないわよね」

エルフの寿命は、永いとはいえ。
ユグネラはその端の方にはいるので。



あたしのかわいい子豚

元気なのね、よかったわ!
メリジェは父さんに似て器用だから、お花の世話もなんてことないわよね。
引き続き、無理せず楽しむこと!

本題だけど。
今まで、昔の話をメリジェにはあまり伝えてこなかったのには、理由があるの。

かつて、この世界は魔王によって闇に覆われていたわ。
勇者が魔王の城まで旅をして、半分の昼を取り戻したのが1000年前。

長い夜の世界は、夜の眷属たちを大きく増やし、彼らは自分たちで自分たちを世話できなくなり、
昼の眷属たちにたくさんの迷惑や、暴力や、野蛮を働いたの。
今の夜の眷属が、そんなことないっていうのは、もちろん知っての通りよ。

だけど、昔母さんは、そんな夜の眷属たちと戦った。
メリジェは、夜の眷属の血を引いているし、夜の眷属のお友達もいる。
だから、嫌な思いをしてほしくなかった。

だけど、今なら伝えてもいいのかもね。
たくさんのヒトと出会っている今なら。
エルフの昔話は長いわよ。











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