Eno.132 レイン  三翼 - くらやみの森

壁の影こそこの世の真実であるのか。

**父の話をしよう。俺の父の、父さんの話を**
**プライドの高い人だったわけじゃない**
**どちらかというと気弱な人だったと思う**
**いわゆる頭でっかちで、押しに弱くて、大人しい人だった**
**父は母方の祖父母が苦手だった**
**母と結婚したのはいわゆる“できちゃった”って奴、責任をとるために結婚した**
**あ、そのできちゃったのが俺ね**
**まあともかく、父は母の一族に流れる気の強さや押しの強さが得意じゃなかったって話**


レイン
「結婚したのも押し切られたからなんだろうな」


**祖父母と暮らすようになってから、父はゆっくりと暖かい食卓から遠ざかっていった**
**父ではなく母の血を中心とした家の作り**
**家の主人が父ではなく、祖父に代わっている事に耐えられなかったのかもしれない**
**父は俺に、料理人じゃなくてもっと金になる職についてほしかったみたいだし**
**家族というまとまりに、祖父母が混ざったことで異物感を感じていたんだろう**

**でもそれって永遠じゃない**
**何事もなく、父だけが耐えていれば、いつか祖父も祖母も死ぬ**
**そうしたら店を継ぐとか継がないとかは置いといて、また家の主は父に戻ったはずだ**
**母が店にこだわったところで、取り上げる事も可能だったかも**
**もう少し円満に店を畳んで、都会の暮らしにまた戻っていったのかも**


レイン
「でもそんなIFはなかったんだ」


**父はこの世の真理を語る者詐欺師と出会った**

**名前を、リトルクロウホームという**

父の柔い心に漬け込んで、腐らせた家の名前だ。








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