Eno.132 レイン  二翼 - くらやみの森

好意が決して伝わるとは限らず鳥は死ぬ。

**俺の昔の話について聞かれるたびに、俺は意図的に近年についての事を濁す**
**俺が今のところ語るのは俺がもっとも穏やかで無知であった頃だけだ**

**俺は日本という島国で生まれ、スーパーマンも魔法使いも存在しないのだと教えられ、幼少期、きわめて凡庸な生活を送っていた**
**家族は母方の祖父母と、両親。いわゆる二世帯住宅ってやつ**
**元々洋食店を営む祖父母とは別々に暮らしていたんだけど**
**祖父が癌になったことをきっかけに同居するようになった**
**入り婿の父は同居に渋っていたのだけれど、結局祖母の泣き落としと、店と老々介護の両立は厳しいと見た母の説得で結局折れた**


レイン
「俺?俺は別にそんなに。母方の祖父母の事は好きだったし、介護や家事を手伝うのは苦じゃなかったよ」


**俺としては祖父母との暮らしは楽しかった**
**母と祖母は店と介護、祖父は店と病院を行ったり来たり、父は働きに出ていて、俺はまあ学校片手間に家の手伝いをしたり料理を教えてもらったり**
**食卓は店のあまりだったり、あるいは祖父が腕を振るって作ってくれたものだったり、結構豪華だったんじゃないかな**
**記念日にはケーキを焼いて、悲しい事があれば寄り添って、時には新しい事をみんなで挑戦したりして**
**穏やかだけど、平凡な毎日**
**漠然とこの頃の俺は料理人になって店を継ぐんだと思っていた**
**祖父母もそれを望んでくれていたし、要領と飲み込みがよかったから、母よりもうまく作るレシピもいくつもあった**
**母はそんな俺に、なんにでもなっていいよ、といいつつ、俺の夢を応援してくれていた**
**なにもかもが上手くまわっていると信じていたし**
**なにもかもが落ち着いていると信じていた**
**俺も祖父母も母も、みんな家族の事が好きだった**

**でも、多分父にとってはそうじゃなかったんだろうな**


レイン
「俺達の好意は、愛情は、父には正しく伝わってなかったんだ」



**父にとってその好意は疎外感でしかなかった**
**今でも思う**
**この時、やり直せてたら、俺はあの人になんて言葉を捧げるべきだったんだろう**








<< 戻る