Eno.322 恋路 六六  【記録】書置きの手紙 - めざめの平原

親愛なる端午へ

先日話した通り、私はしばらくの間、家を空ける事にしました。
あなたは私が飛べないままでも良いと言ってくれたけれど、
出来た事が出来なくなるのは劣化であり、
それをそのままにして置く事は、私の心が許しませんでした。

果樹の収穫時期は出来るだけ外したつもりですが、
冬を前にあなたを一人にしてしまってごめんなさい。

でも、その代わり、麓の皆さんには困っているあなたを助けてくれるように
良くお願いして置きました。
今度の土地に暮らす方々は、私たちの事情をほんのり察しつつ、
それでいて、そっとしておいてくれる善い人々であると思います。
あなたは人を頼るのがあまり得意でないように思いますから、
或いは、これが良い機会になる事を願ってやみません。

それから、もし火急の用が出来た時は、
鱗を一枚置いておきますから、それを折って下さい。

それでは、また。

あなたの姉より。


「これで良し……と」









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