Eno.663 ジオグリス=エーレンベルク  「ならどうしてこんなとこにいるの?」 - あざやかな花園


覚えているのは空を埋め尽くす色だ。




「聞いてる?聞けって、バカ兄貴!わかるだろ!」



――わからない。



「わからないじゃねーよ!降ろせよ!このままだと共倒れだよ、
 あたし背負ったまま逃げきれるわけないだろ、」




背を強く叩かれたことをまだ覚えている。
どのくらい強かったか、なんてものはとうに忘れてしまった。





いい加減にしろ!
 魔法使えるの・・・・・・兄貴だけだろ!?」



「杖があれば――」




できる、と結論付けたことだった。
証明する機会など永遠に来なくてよかった。





「どのみちあたしはこの脚じゃだめだ。10秒、10秒あれば跳べるだろ?
 そのぐらいは稼ぐ。だから兄貴は、」




「嫌だじゃねえよ!お前と心中なんて御免だからな!」




妹の叫びを覚えている。覚えていない。どんな声だった?
何を言われたかは覚えているのに。あれだけ共に過ごした声を思い出せない。






絶対に振り返るな。
 行け!跳べ!





妹を降ろしたのは、




みんなを、




覚悟を無駄にしない為に、皆のために、しにたくなかったから、




空間転移の魔術は解明されていない。



紡ぐ。紡ぐ。紡ぐ。
音を立ててあの子が注意を引き付けている。飛ばなくてはならない。成功させないといけない。

どうして一人しか運べないんだろう。


空気が揺らぐ感覚。不自然に身体が浮くようなそれ。





転移の感覚を覚えている。空を覆う灰を覚えている。
咆哮を、なにかがひしゃげる音を、肉を、







はじけた■からこぼれたまあるい色と目が合ったことを覚えている。




「――ゲホッ、ごほ、が、は、ッ、あ゙……」



慣れなければ。早く。慣れなければいけない。
だってそうだ。家族を目の前で亡くすぐらい、よくあることだ・・・・・・



大丈夫……



「兄ちゃんが、全部、終わらせる、から、だから……」



そんな目で見るのはやめてくれ。








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