Eno.67 チーバイシーア  尊命 - ひだまりの高原

その日は、寒い日だった。
枷の触れてないところがよく冷えて、首を動かすのが嫌だったのを覚えている。

「キミがチーバイシーア?」

小さな龍が、やってきた日。
牧場の隅で寒さを凌いでいた羊に、大きな使命を与えられた日。



目の前の彼女が言うに、僕は成績優秀らしい。
だから、とある龍を殺すことを命じられた。
神に弓引く人を滅ぼした悪い龍。神話に聞く、有名な話。

「龍の掟。人を殺めてはならない。これは大丈夫?」
知っているから、柵の向こうの彼女にその話を出した。
自分で手を下さなかったらそれで良いのか、と。
仕えるべき者の姿を知らなかったから、命知らずなことを口走ったと、今は思う。
「大丈夫大丈夫〜」

「……よくわかってないみたいだね〜。
 ボクが想像主だよ。キミの答えは『尊命仰せのままに』。
 それだけなハズだけど」


震えて吐いた服従の言葉には、白い息が混じっていた。








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