Eno.153 ヨギリ  拠点にて - はじまりの場所







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この庭園が来訪者たちを迎え入れて間もない時。
件の島を出歩いても良いという案内があるまで、最初の拠点で待機する時間があった。
みんな各々自由に時間をしている様で。自分もまた、適当に拠点の街を散歩したり木陰で昼寝したりしていた。



この島に集ったあらゆる民族、種族、生物、人工物、他。
それぞれがこの島の来訪者として行き交い、時間を過ごしていた。
すれ違う人びとの顔に見覚えのあるものは無く、皆一様に知らない人ばかりだったのだけれど。
それでも。
一瞬のすれ違いで笑っている顔、困っている顔、何でもない様な顔を見掛ける度に。
この人が生きている時間の一瞬を今、自分は同じ場所で過ごしているのだろうか、と思うと。
自分の横を通り過ぎて行った表情に不思議な感覚を覚えた。



それは日常を過ごしていれば忘れてしまう様な、些細な事なのだろう。
そう思って。今のうちに少し記録を綴っておく事にした。



最初の拠点で過ごしていた間、たまたま一緒に同じ時間を過ごした人がいた。
ひとりは眼鏡をかけた人。もうひとりは青いちょうちょを纏った子。
二人とも多分、この島に来て間もない様子だった。



眼鏡をかけた人は自分より背が大きかった。
髪型が整っていてネクタイをしていたせいか、……何て言うんだろう。何となく、公職の人らしい雰囲気を感じた。
それとも研究職とかの人なのかな。
この島でまた出会えた時に、教えてもらえるだろうか。

もうひとりの子は男の子らしい外見をしていた。
印象に残ったのは綺麗な青い蝶。同じ色相の瞳と、黒い髪。そしてふわふわと浮遊していたこと。
浮遊する人はこの島にも様々いるけれど、彼の場合は……どうやって浮いていたのかな。
あの青い蝶をまた見かける事が出来たら、きっとあの子にも会えるだろう。






「……うん。こんな感じかな」



「さあ、また少し街を散歩して来ようかな。
 まだ行ってない場所はたくさんあるし」












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