Eno.33 半分屋のグレゴリー  x:mingle - ほしふる洞窟



──嫌い。



どこが嫌いかと問われたら、すかさず全部と返す。
どこが好きかと問われたら、尋ねた相手を殺してしまいそうだ。
しかしどちらにも共通している事がある。


「崩れてる」


天秤が。守ってきたもの。

何にも与せず、何にも反しない。
踏み入らないから踏み入られないように。
ずっとそうしてきた筈だ。
筈だったんだ。


そうして崩される気が、して。


「気持ち悪い」


伴う吐き気も痛みも動悸も結局は拒絶反応で。
OCDと呼ばれても否定出来ない心を引っ掻き回されれば当然の。
いつからそうかなんて聞かれても分からないし。
治すていで崩されるなら憎悪は芽生えるし。

奥底では理解しているから近付かないし。
もう崩れていたのを知っていたから目を逸らすし。
その癖まさぐって引き摺り出してゆくし。
自分は晒さないし。
天秤はアンバランスに傾いて揺れて目眩を覚えるし。
頭痛が酷くて立っているのも辛いし。
今すぐ死んでやりたいと思うのに死なないし。
平静を保ちたいのに顔は歪むし。
汚れ過ぎた体を消毒液のプールに突っ込みたいし。
ついでに中身まで裏返してブラシで洗って欲しいし。
乱暴に傷つけて貰えないと壊れるし。
代替にそれを載せて水平に戻さないと壊れるし。
こんなピアスひとつでは重さが足りないし。



「死ねって言えば良かった」


そしたら死んでくれた?
到底無理だろうな。

死にたそうな顔には見えなくて、いつも面白そうに笑ってる。
誰かと違って死ねないから生きるしかないのに生きるには足りなさ過ぎる。
惰性の余生を生きるのに天秤は不可欠だった。

のに。









<< 戻る