Eno.125 食■世界オブスキュラ  可愛いきみ - まぼろしの森林



酒の席でたまたま、偶然、君がレッドドラゴンを食べたという話をした。
人間なんでも食べようとするよね、なんて笑って誤魔化したのを君は気付いていないだろう。気づかれても困っちゃうからね。
人間はどんな存在でも好奇心、探究心に抗えずあらゆる手を使って料理に仕上げる。
それほど食へ重きを置いているということなんだろう。
十分過ぎるほどに知っているから、食への好奇心が強い存在を怖いと思う。

もし、あの時飛んでいたドラゴンが。
君たちがやったように調理されて食べられていたら。
ざまぁみろって気持ちよかったのかな…。

酒が不味くなるから言わないけどさ!
酔い潰れた君は借りてきた猫の如く、愛嬌のある可愛い猫みたいで面白かったな。
ね、ただの酒飲み相手くらいが丁度いい。
俺の話なんて酒の肴にも、糧にもならないよ。

 
「秘密は多いほどいい」



君が悩んでいたようだから励まし、罪の告白を聞いた。
時間操作の魔法。倫理とリスクを捨てれば思うがままな大きな力。
君は取り返しのつかないことをしてしまったと罪悪感に苛まれ泣いていた。
巻き戻した時間は二度と戻らない、枝分かれした選択肢を一つ潰したようなもの。
だけど新しい選択肢を作ることはできるはず。
取り返しがつかなければ取り戻せるように動くしかない。
君にはそれが出来るだろう。

俺にはできない。
時間を戻しても変えられない運命の元にいる。
死んだ兄のような存在も、離れ離れになった弟のような存在も、生を受けてしまった俺も。
命ある限り運命は変えられない。この体は世界の言いなりパペットだ。

可愛い弟みたいな君に、年下の親友の影を見たのかもしれない。
見た目も性格も全然違うんだけどね。
俺のお兄ちゃんっぽい振る舞い、中々だと思わない?
きっと年上の親友を近くで見ていたからかもしれないね。
君は可愛い弟でいてね、俺は兄らしくいるから。
偽るのは得意だよ。

 
「ひとでなしが大人ぶれる」



一生かけても果たしたい夢、復讐を皆と共に聞いた。
妹を、村を滅ぼした自然災害のような存在に復讐を誓う君。
幻覚に蝕まれながら強い意志を持ち、復讐に焦がれる。

強いな、君は。

復讐を果たせる力が欲しいと君は言うけれど、心も強くなければ復讐は果たせない。
不屈の精神、遂げる意志、折れない心。
君はそれをきっと持っている。泥臭く生きて身につけたもの。
俺が飽き性じゃなけりゃ君みたいになってたのかな。

天災とも呼ばれる存在に挑むなら俺は応援しよう。
君が折れそうになったら支えてあげる。

悪意なき悪を憎むのは同じだからさ。

 
「でも俺は飽きてしまった」























ハイネが生まれたノースタウンは山岳地帯に存在し、塀で囲まれている。
特産品はワインにイチゴ。

その実態は食用人間を育てる政府公認の人間牧場である。
人口50人ほどで若干厳しい環境で育てることで質を高めるようにされているが家畜達は気づかないまま生を終える。

ある夏の時期にドラゴンが落とした火球によりノースタウンは壊滅した。








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