Eno.355 決闘の天使デスデュエル 記録 - たそがれの頂
「人の子」
「なぜオレが死者を地獄へ連れて行くと思った」
「オレは人の子を罰する為に在るのではない。
主より賜った慈悲と救済を敗者に与えるために在る」
「連れて行く先は天空だ。地獄になどくれてはやらん」
かつて存在した決闘裁判。
それは多くの場合、両者が『神に誓って無実である』と主張した時に執り行われた。
「じゃあ」
そうした性質であるからこそ、
「じゃあ、お父さんは『正しかった』んですか?」
真に『正しい者』が二人揃うことは珍しくなかった。
「何も悪くなかったのに、死んだんですか」
「どうして?」
「どうして助けてくれなかったんですか」
「どうして皆にそう言ってくれなかったんですか」
神判とは名ばかりの争いを見守るだけの天使に与えられた権限は少ない。
その口で真実を解くこともなければ、民衆の誤解を解くこともない。
二人の『正しい者』を生かすために介入することもなかった。
「あなたが傍で見ていたのに。」
一羽の天使は、闘いを見届けるだけだ。
理不尽に死んでいくばかりの不運な者を見ていた。
ただ、見ていた。
「『何も出来ずに見ているだけとは、もどかしい思いをしたでしょう』」
「何を勘違いしている?」
「"主より賜った御役目を日々変わらず全うできる"ということ、
この幸福が分からん奴には何を言われても響かんわ」