Eno.132 レイン  一翼 - はじまりの場所

あなたは正しいことと間違っていることの区別を学ばなければならない。


「優秀な卵だけがこの世界に求められた存在である」
「空を覆う黒い翼が、裁きから我々をお隠しになってくれる」
「預言者マルクスは神にあらず。代弁者であり、我々を導いてくれる得難き翼の一枚である」
「白鴉の御使いの名のもとに」
「我らは卵から孵り雛鳥として清く正しく愛を謡わねばならぬ」
「いつか共に空を飛ぶ存在として」


あなたは正しいことと間違っていることの区別を学ばなければならない。

「我々が息苦しいのは社会という卵の内で腐っていくからなのです!」
「同僚を見なさい。彼らは決して満たされず、真の意味で大人になる事ができないまま殻の内で窒息している」
「友人を見なさい。彼らは決して反省せず、腐る事を成長と勘違いさせられて哀れにも胎児のまま眠っている」
「家族を見なさい。彼らは決して目を覚まさず、己に翼の兆しがある事を知らないまま孵化せぬ卵を温めている」
「あなたを見なさい。あなたは彼らを導くために殻を破る雛鳥である。殻は選ばれたものしか内側から破けず、導くものだけが他者の殻を破る事ができる」


あなたは正しいことと間違っていることの区別を学ばなければならない。

「■、これはマルクス様がお前に期待をかけているんだ。痛いかもしれないがじっとしていれば終わる。期待を裏切るんじゃないぞ」
「■、母さんたちは可哀想なんだ。俺は何度も割って開いてやろうとしたんだが、殻は分厚く、母さんたちは腐る事を選んだんだ。でもお前は違うよな?」
「■、お前には俺たちがついている。お前は一人じゃない。俺たちは同じ巣の仲間なんだから」
「■、雛でいることは恥ずかしいか?卵のままで居たかったという気持ちは父さんもわかるよ」
「■、それでもお前に翼は授けられたんだ」
「俺はそれが誇らしい。同じ雛として」


あなたは正しいことと間違っていることの区別を学ばなければならない。

割れたスノードームが転がっている。
泥のように、肉がついて、割れた卵のような頭から卵液ではない液体がこんこんとあふれ出していた。


あなたは正しいことと間違っていることの区別を学ばなければならない。

レイン
「飛び降りの事を連中は巣から滑落する救いのない行いだとした」

レイン
「翼の庇護の下にいるのは苦痛だったし、俺たちは羽を毟って逃げ出したんだ」

レイン
「巣から落ちるのは当然だろう」

レイン
「……本音を言うと」



ここにいる事もそれなりに苦痛だ。
自分で場所を作ったくせにね。

あなたは正しいことと間違っていることの区別を学ばなければならない。








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