Eno.397 ディヴェルス・ラヴェル  カタルシス - コピー - はじまりの場所

頭の中にたくさんの音楽が流れている。
もとより書くことは得意ではなかったが、このでは余計に曲作りもままならない。
解放されない音楽はどこに行くのか、考えたことはあるかい?
春の泡のように消えてしまうなんてことはない。
棘のようにわたしの頭の裏をつついている。



誰もがこの音楽という責め苦から逃れたいのだと、幼いころのわたしは思っていた。
もちろんそうではなかった。
誰もが、己を苦しめるものについて無自覚で、自らの孕んだ毒に気づかないまま、死んでいく。
雑音ボウフラが互いを打ち消し合っている。
耐え難い。
実に。



「きみは実に、自由放埒でよい」

その楽団員コマドリはそう言った。
わたしはこう返した。

「いいや、キミがもっとも自由だよ。
 だって音楽の才能がないんだから」

かれはわたしの知る音楽家のなかで、最も才能がなかった。
だからわたしと、仲が良かった。



かれは楽になっただろうか?



|解
 - (katharsis)悲劇の与える恐れや憐れみの情緒を観客が味わうことによって、
 日ごろ心に鬱積(うっせき)していたそれらの感情を放出させ、心を軽快にすること。浄化。








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