Eno.14 ヴィンテル これは忘れたくねえ話。 - たそがれの頂
前回のあらすじ。
ユールの使者として遂行した。すげえ疲れた。
行く先々で人と出会い、
ユールを呼びかけて。
俺は随分と、長旅も、人とのやり取りも、慣れちゃあいたが。
こうして、一人の男として。
誰かと共に戦う、ってんのは、初めてだったんだ。
一つ、昔話をしよう。遠い昔話だ。
一人の虫が、他の虫から、とある話を聞くんだ。
なんでも、遠く離れた大地には、冬に白一色になる銀世界があるのだと。
その景色を見たものは、この土地の者はそう多くはないのだと。
それを聞いた虫は、憧れを抱いてしまった。
そこがどれくらいの距離かもわからない。どれくらいでたどり着くのかも。
どれくらいの命を賭ければ、その景色を望めるかも。
それでも、一生をかけて、見たいと願ってしまった虫は、仲間の反対を押し切り、一人旅を始める。
嵐の時も、風が冷たくなる日々も。
辛くなかった、と言えばうそになるが、それでも、憧れ続け、その景色を、見たくて。
必死で、空を飛び続け。果てには、ようやくその土地に、たどり着いたのだが。
まだ、雪は降っておらず、銀世界は見れなかった。
――ああ、ここまで、かと。
余命がもう残っておらず、徐々に体温も、意識も失い。
ただただ、静かに、その虫は命を土へと還っていったはずだったが。
土地が小さき虫の、ささやかな願いを聞き届けたのだろう。
雪が降り。一つの大きな祝福が、その虫に降り注がれて。
新たな魂へと生まれ変わり、自然と共に生き、自然と共に果てる
使者へと生まれ変わったのであった。
そう、祝福とは、土地に、天に、自然に。愛されているという事。
その祝福に愛された”私” とは、
ユールと共に、生きる使者 でしかないという事。
だから、その祝福に苦しみ、何をするべきなのか悩む者には、叱咤し、奮い立たせて。
突き進む者には、隣人として、傍におり、サポートをして。
そう、ユールの使者として、今年も振舞っていたが。
ファラウにあげたものは、溶けない雪の結晶。彼女の行く先が心配で、時折覗きに行くための縁の形。
響にあげたものは、溶けない氷でできたヤドリギの花。冬を知らなかった響に、また共に戦いたくて、遊びに行くための縁の形。
――こうして、誰かに縁を結び、一人の妖精……、いや、男として。
誰かと共に、こんなにも長く、いたいと思ってしまうには。
充分過ぎるほどの経験とかけがえのない縁だったと、
彼ら、彼女らに言えるだろう。
そう、笑って。
また元の世界へと、俺はまた、忘れたくない思い出 を抱いて。
羽ばたいていくのであった。
ユールの使者として遂行した。すげえ疲れた。
行く先々で人と出会い、
ユールを呼びかけて。
俺は随分と、長旅も、人とのやり取りも、慣れちゃあいたが。
こうして、一人の男として。
誰かと共に戦う、ってんのは、初めてだったんだ。
一つ、昔話をしよう。遠い昔話だ。
一人の虫が、他の虫から、とある話を聞くんだ。
なんでも、遠く離れた大地には、冬に白一色になる銀世界があるのだと。
その景色を見たものは、この土地の者はそう多くはないのだと。
それを聞いた虫は、憧れを抱いてしまった。
そこがどれくらいの距離かもわからない。どれくらいでたどり着くのかも。
どれくらいの命を賭ければ、その景色を望めるかも。
それでも、一生をかけて、見たいと願ってしまった虫は、仲間の反対を押し切り、一人旅を始める。
嵐の時も、風が冷たくなる日々も。
辛くなかった、と言えばうそになるが、それでも、憧れ続け、その景色を、見たくて。
必死で、空を飛び続け。果てには、ようやくその土地に、たどり着いたのだが。
まだ、雪は降っておらず、銀世界は見れなかった。
――ああ、ここまで、かと。
余命がもう残っておらず、徐々に体温も、意識も失い。
ただただ、静かに、その虫は命を土へと還っていったはずだったが。
土地が小さき虫の、ささやかな願いを聞き届けたのだろう。
雪が降り。一つの大きな祝福が、その虫に降り注がれて。
新たな魂へと生まれ変わり、自然と共に生き、自然と共に果てる
使者へと生まれ変わったのであった。
ヴィンテル
「本当、不思議な話だよなあ。
その虫が、今こうして今年も生き長らえてんのは」
「本当、不思議な話だよなあ。
その虫が、今こうして今年も生き長らえてんのは」
そう、祝福とは、土地に、天に、自然に。愛されているという事。
その祝福に愛された
ユールと共に、生きる
だから、その祝福に苦しみ、何をするべきなのか悩む者には、叱咤し、奮い立たせて。
突き進む者には、隣人として、傍におり、サポートをして。
そう、ユールの使者として、今年も振舞っていたが。
ミスティル・テイン
「やっぱさ、俺。
今だからこそ生きてえ、って思えるんだ」
「やっぱさ、俺。
今だからこそ生きてえ、って思えるんだ」
ファラウにあげたものは、溶けない雪の結晶。彼女の行く先が心配で、時折覗きに行くための縁の形。
響にあげたものは、溶けない氷でできたヤドリギの花。冬を知らなかった響に、また共に戦いたくて、遊びに行くための縁の形。
――こうして、誰かに縁を結び、一人の妖精……、いや、男として。
誰かと共に、こんなにも長く、いたいと思ってしまうには。
充分過ぎるほどの経験とかけがえのない縁だったと、
彼ら、彼女らに言えるだろう。
ミスティル・テイン
「……絶対、忘れないでやる。君達の事を、な」
「……絶対、忘れないでやる。君達の事を、な」
そう、笑って。
また元の世界へと、俺はまた、忘れたくない
羽ばたいていくのであった。