Eno.357 キョク  後日談 霧崖国の年の末 - せせらぎの河原

春柱島に一際強く、暖かく吹き抜ける風。


久度春
「――春一番……?」




久度春
「ああっ! や〜っと帰ってきた!」

キョク
「そうだ!」

旭丹王
王の帰還である!!
 待たせたな〜久度春よ」

久度春
「…………」

旭丹王
反応うっす

久度春
「まあ、待たせられるのはわかっていたことですので。

 それよりも、あまりに寒いせいでしょうか?
 既に人里の方のフユワスレたちが咲き始めてるんですが、
 これは何事ですか?
 『今年はハルバシラ様差し置いてオレらが一番乗りだぜヒャッハー!』
 みたいなノリですよ。反逆とかされてます?」

旭丹王
あいつらそんな感じなの? 随分楽しそうではないか」

旭丹王
「だが案ずるな。これに関しては我がそう命じた。
 今年は遅くなるから先んじて繁華だけでも暖めておくようにな」

久度春
「うええ? 何を勝手に……僕にも伝えてくださいよそういうのは。
 こっちの燃料計画にも影響するんですから」

旭丹王
「寒かったら寒かったで文句言うではないか。
 あと数世代前の久度春なら
 『忙しい年の瀬にこんなこといちいち伝えに来るな』って言ってきた」

久度春
「その久度春は末代まで呪うことにして……僕か、呪われてんの。
 何だかなあ。何百年とこの島を治めておいて
 未だに行き当たりばったりな連携をしてるなんて。

 だいたいハルバシラ様もさあ……
 祖先様の『ああ言ってた』『あの時こうだった』を参考にするのは
 かまわないけど属人的だったり今の時代にそぐわないこととかあるから
 適宜確認してもらわないと困るんですよねえ。そもそも遠征する時も
 手紙のひとつ寄越さないでずっとやってきたってどうなの?
 どこに行ってるかもわからないし、待たされるこっちは気が気じゃないし
 いくらハルバシラ様が強いからってもしものことがあったらこの島の春は

旭丹王
え、何……帰って早々うるさ……
 あとで聞いてやるから一旦止めろ。
 我すぐにでも春を呼ばないと。今年は二箇所だぞ。二箇所。
 『優先順位が大事』ってほざいてたのはえーと、わりと最近の久度春」

久度春
僕ですねえ!
 もういつ世代交代したかすら把握してない疑惑ありません?
 それとも僕が影薄いだけ?
 皆同じ役目を持ってはいるけど、全部別の人間なんだァ……

 はあ。おっしゃるとおり、先にやることがあるのは僕も同じですね。
 今年はサンサくんの依頼もあって
 変則的なのはわかってるんで、多めに見てあげますか。
 ほんとは変則的な時こそ
 綿密にご協力いただかないと困るんですけどねえ……

旭丹王
「はいはい。お前がクドクド言う類の久度春であったこと忘れかけてたわ。
 反省会はまた今度な」

旭丹王
「そうむくれるでない。遅れた分はきちんと蓄えてきたのだ。
 最高の春を見せてやるからな!」



春柱島に春が来る。

そして——





遠い村の何処にて、
白い牡丹の蕾が揺れる。








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