Eno.599 吠え声  「♪」 - めざめの平原


子供と白くて小さいランドラは向かい合っていた。
悪いことをした、とそんな顔する子供にとりあえずまた体当たりをしたら呻いた。

どうして、子供はランドラが着いていくと行ったあの時、「悲しい」になったのか。
知りたいことはそれだけだった。
「やりたくない」「嫌」だから、雫を零したのではなかったのかと。

とはいえ、鳴き声と鳴き声。やはり話にはならない。

でも、子供は。しばらく視線を彷徨わせて。
それでもう一度ランドラの方を向いて。


尻尾に包まれた。驚きすぎて動けなかった。

子供は尻尾に包んだランドラを自分の側に寄せて、くっついた。
またちょっとだけ、雫が溢れてた。

意味はよくわからない。けれど、
それが「離れないでほしい」ということはなんとなく伝わった。


どうして、答えが違ったのならば、子供はあんな答え方をしたのだろう。
それとも変わる何かがあったのだろうか。
難しい。でも、もうランドラとお別れする気はないことだけは確からしかった。
あの人間と、紫色の仲間とも。

自分が離れている間にいろんなことが変わってて、
自分だけ仲間はずれだったのかとちょっとまた転がったけど、
いつまでたっても引きずらないのも白いランドラだ。

いつまでも怒っていたって楽しくもないし、子供と離れた数日はなんだか土に潜り続けてしまったし、
なにより、子供たちに着いていくほうが、またごちそうも楽しみもあるんじゃないかと思った。

それだったら気にしちゃいられない。
「悲しい」の意味も、雫のほんとの意味も結局よく分からなかったけれど、
子供はもう自分だけ分かったみたいな顔をしなかったから、まあいいかなってなんだか満足してたし、
この細っこくて素直にランドラに着いてきてほしいと言えなかった子供に、しょうがないなあという気持ちもあったので。


立ち上がって、並ぶ影ふたつ。鳴き声ふたつで、歩いていく。

子供の足元に結ばれた紐が、なんだか素敵な色してたので、褒めるように鳴いてやれば。
子供は「ウー」と鳴いて返した。

ランドラの機嫌は、すっかり元通りになった。
だから、ほんの少しだけ残っていた桃色の金平糖を差し出してやったのだ。











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